⑥ 【移行抗体の免疫への影響】

【移行抗体の免疫への影響】
・移行抗体(MDA)は新生仔犬や仔猫が生後数時間に初乳を摂取して獲得することがほとんどである。
MDAは受動免疫を提供する。
MDAは生後数週間の子犬や子猫を防御するために重要ではあるが、MDAはまたほとんどのワクチンに対して自らに必要な能動免疫を起こす能力をも阻害してしまう。
・血清MDAは幼若動物の免疫グロブリンG(IgG)産生を阻害し、ワクチン抗原が能動免疫の応答を刺激するのを妨げる。
・ほとんどの子犬や子猫において、生後約8-12週齢までにワクチン接種によって能動免疫が惹起可能となるレベルにまで移行抗体の量は減少する。
・移行抗体の量が少ない子犬は、より早い年齢で脆弱である(ワクチン接種に反応できる)可能性があるが、一方で、生後12週齢以上までワクチン接種に反応できないほど高レベルの移行抗体を保有する子犬もいる。
MDAが完全な免疫防御をもたらせるほど十分なレベルには満たないが、ワクチン接種による能動免疫の成立を防げるほど十分なレベルである期間を、子犬や子猫の“感受性の窓(window of susceptibility)”と呼ぶ。
・この “感受性の窓”の間、    子犬や子猫は従来のワクチンでは免疫を得られず、“野外”の病原体や強毒な病原体に接触すると病気にかかりやすい。
・個々の子犬や子猫に移行するMDAの量は同腹間や同腹内でも異なるため、血清学的検査を行わない限り、この“窓”がいつ開いて閉じるか(すなわち、その期間がいつ始まり終わるか)を予測することは不可能である。
MDAの十分な減少がいつ起こるかを血液検査なしに予測することは不可能であるため、初回のコアワクチン接種シリーズでは通常、複数回の連続投与を実施する。
・この場合の複数回の投与はブースター接種ではない。
・この連続投与はMDAが十分に低下した後、できる限り早期に能動免疫を惹起することを目的として行われる(図1参照)。
MDAは、生ワクチンと不活化ワクチンの両方に対する免疫応答を阻害する可能性がある。
・不活化ワクチンの初回接種時に、能動免疫の応答を阻止するのに十分なMDAが存在する場合、免疫反応は立ち上がらないだろう。
・その時期に重なってしまう場合、不活化ワクチンの2回目の投与でさえも、その動物を免疫することができなくなってしまう。
・逆に、MDAが十分に低下した後にMLVワクチンを1回接種すれば、通常は十分な免疫を獲得できる。

以下、Fig①の文章
図1. 母体由来抗体(MDA)が、初回ワクチン接種で子犬や子猫に免疫をつけることをどのように妨げるのか。
・このグラフは、縦軸に子犬の血清抗体(Ab)濃度または “力価”、横軸に週齢を示している。
・この抗体はイヌパルボウイルスに対するものであるが、子犬/子猫に関わらず、また様々な病原体に対して同じ原理が当てはまる。
・生後まもなく、この子犬は初乳を介して母親からかなりの量の抗パルボウイルス抗体を手に入れた。
・これがいわゆる “母親由来抗体”あるいは移行抗体(赤線)である。
MDAは指数関数的に減少し、半減期は約9-10日である。
・注射のアイコンは複数回の接種を表しており、その初回接種は6週齢時点で行われた。
・この初回のワクチン接種では、MDAがワクチンを中和したため(阻害したため)子犬に免疫がつかなかった。
・同じことが次の2回目のワクチン接種にも当てはまる。
・生後8週齢にて、この子犬はパルボウイルス性腸炎にかかりやすくなった。
・これはMDA濃度がイヌパルボウイルスの中等度レベルでの投与から防御するのに必要な量を下回ったからである。
・しかし、MDAはその年齢での免疫を付与できなかった、これはMDAのレベルがまだワクチンを妨害し、能動免疫の付与を妨げるのに十分な量が存在したからである。
・約13.5週齢になると、この子犬のMDAレベルは十分に低下し、予防接種が可能となった。
・生後16週で追加接種をされた子犬では、すぐに能動免疫が惹起された(青い曲線)。
・点線と点線の間のピンクの斜線の長方形は、この子犬の “感受性の窓(期間)”を表している。
・これは、この子犬がパルボウイルス病にかかりやすい期間を示している。
・幼若な子犬のMDAを定期的に測定することは推奨されない。
・子犬によっては、この表の子犬よりも与えられる移行抗体の量が多い場合や非常に少ない場合も起こりうる。
・そのため、その “感受性の窓”をどの子犬や子猫においても短い期間にするため、実践的な方法として2-4週毎のワクチン接種が実施される。