⑦ 【ワクチン接種に関する意思決定に役立つ犬と猫の血清学的検査】

【ワクチン接種に関する意思決定に役立つ犬と猫の血清学的検査】
・コンパニオンアニマルの診療における進歩として、イヌではCDV、CPV、CAV、ネコではFPVに対する抗体を検出できる診断検査キットが利用可能となっている。
・検査キットの中には、動物病院やシェルターにて使用が認められ、その準備や使用方法も簡単なものがある。
・20-30分以内という速さで陽性or陰性の結果が得られる。
・これら検査キットの中には、血清学的検査の “ゴールド・スタンダード” であり続ける従来の検査室の方法(ウイルス中和試験や血球凝集阻害試験など)を補完するに有用なものもある。

・成犬ではCDV、CPV、CAV、成猫ではFPVについて、血清抗体の存在は防御可能な体液性免疫の証拠となり、疾病を防御できる可能性も非常に高い。
・ペットの中には、これらの抗体が3年以上持続する場合もある。
・ワクチン接種を受けたイヌでは、CDV、CAV、CPVに対する免疫防御は数年に及び維持される可能性がある。
・これはネコのFPVにも当てはまる。
・逆にいえば、FHVやFCVにおいて、保護猫を対象とした先行研究では支持的な結果が得られているものの、現在のところ、どちらのウイルスについてもその抗体の有無は免疫防御の信頼できる予測因子とは考えられていない。
・FHVやFCVを防御するワクチンは、検査結果を陰性から陽性に変化させることは可能だが、疾病に対しては部分的な防御にしかならず、感染の完全な防御やキャリア状態の発症を効果的に予防することはできない。
・ネコでは、抗FPV抗体の検査は、抗FHV抗体や抗FCV抗体に対する検査よりも、より信頼できる防御の指標と考えられている。

・抗体が存在した場合に反して、検出可能な抗体が存在しないことは、感染や疾患に対する感受性を確実に予測するものではない。
・ただ、この抗体検査では細胞性免疫や自然免疫を評価していない。そのため検出可能な血清抗体がない場合でも、多くの動物は免疫学的記憶によって強固に防御されていると考えられる。
・これを裏付けるように、過去にワクチン接種を受けた血清陰性のペットでは、追加接種直後、迅速に強力な抗体反応が証明されており、投与から強固に防御されている可能性が高いことを示している。
・これら知見にもかかわらず、一般に抗体がないことが追加接種の臨床適応とされてきた。
・これは予防の原則に基づくもので、免疫記憶の証明(再接種と再検査による回顧的な証明以外)は、ほとんどの臨床現場では容易に達成できないからである。

・飼い主は、子犬や子猫が初期のワクチン接種を終えた後、能動免疫が付与されているかを確認したいと望む可能性がある。
・その場合、生後20週以降、早くとも最終ワクチン接種から4週間経過してから採取した血清サンプルであれば、検査に用いることができる。
・血清が陰性であることが判明した動物(おそらくごく一部)では、ワクチンを再接種し、数週間後に再検査する必要がある。
・その動物が再検査時に再度陰性と判定された場合、陰性と判定された病原体に対する防御免疫を獲得することができない可能性のあるノンレスポンダーと暫定的にみなすべきである。
・このステージにおいてゴールドスタンダードの血清学的検査を実施すると、早めにワクチンの防御ができていなかったと確認することができる、あるいはノンレスポンダーに典型的な低いor検出不能な抗体価を明らかにすることができる(図2参照)。

以下、Fig②の文章(画像内の訳は今回は割愛いたします)
・生後16週齢以上の子犬や子猫における最終接種4週間後に得られた血清学的検査結果を解釈し、対応するために推奨されるアプローチを示すアルゴリズム
・理想的には、血清学的検査、特に抗 CDV 抗体の検査は、臨床現場即時検査ではなく、標準的な研究室で行うべきである。

・実臨床にて血清学的検査キットは、(例えば)3年ごとの定期的な再接種に代わる便利な方法を飼い主に提供したいと考える獣医師には支持されている。
・しかしながら血清学的検査キットは、基準となるゴールドスタンダード検査と比較した場合、感度、特異度、陽性および陰性的中率(PPVやNPV)、全体的な精度(OA)にばらつきがあることが示されている。

・実臨床における血清学的検査キットを信頼するには、その特異度が高くなければならない。
偽陽性という結果は、動物が抗体を持ち、防御されていることを示すだろう。
・ しかし実際には、この結果は偽陽性であるため、現在のガイドラインではその動物が再接種を受けるべきであるとされている。
・最近、ドイツにおいて、いくつかの異なる種類の診断用検査キットがゴールドスタンダード検査と比較された。
・それらキットの使いやすさ、ゴールドスタンダード検査に対する性能はさまざまであった。
・試験に用いたキットの中において、イヌ血清中のCPV-2抗体を検出するキットは非常に良好な結果を示したが、CDV抗体とCAV抗体を検出するキットではそこまで良好な結果が示されなかった。
・CDV抗体検出のための4つの異なるキットをゴールドスタンダード検査と比較した。
・ゴールドスタンダードに対して、急性疾患のイヌや慢性疾患の健康そうなイヌの検査に使用した場合、これらのキットの信頼性は低かった。
・この論文では、CDV検出用のゴールドスタンダードであるウイルス中和試験を急性疾患や慢性疾患のイヌに使用した場合の信頼性についても同様に疑問を呈していた。
・全体として、これらの検査キットを用いたCDV用の血清学的検査の有用性は、急性疾患のイヌや慢性疾患のイヌの場合のみであるが、この研究では支持されなかった。
・抗CAV抗体を検出する1つの検査キットでは、特異度が低かった。
・ この重要な分野の進歩を後押しするために、さらなる研究が必要である。

・ワクチン接種に関する意思決定の補助として血清学的検査の有用性と限界を理解することは大変難しいことである。
・獣医師は、血清学的検査や “力価”の検査をそこまでしたいと思っていないのであれば、無理にその検査を始めなければならないと義務を感じるべきではない。
・血清学的検査に関するいくつかの FAQsが本ガイドラインの最新版に含まれている。
・これらは、このトピックをさらに探求することに興味がある獣医師のためのものである。