⑤種類別ワクチン

【種類別ワクチン】
・前回のWSAVAガイドラインの発表以降、新しい種類のワクチンが開発されて発売されている。
・しかし、世界的に認められ、卓越し重要なワクチンのタイプであり続けているのは、弱毒生ワクチンと不活化ワクチンである。
・弱毒生ワクチンは、生きているが弱毒化された(弱らされた)ウイルス全粒子または細菌を含有し、細胞への接着、感染、複製を通じて低いレベルでの一過性の感染状態を作り出し、病気を発症することなく強い免疫反応をもたらすものである。
・一般的に弱毒生ワクチンは他の多くのワクチンと比較し、その免疫原性は高く、特に強力なものである。
・弱毒生ワクチンは一般的に強い免疫応答を誘導するためにも少ない投与回数で済む。
・改良された生ワクチンの中には、MDAの干渉がない状態で動物に投与した場合、1回の投与で(数年に及び)一貫した免疫応答を持続可能なものがある。
・弱毒生ワクチンには、非経口的(通常は皮下)に投与した場合、関連する解剖学的部位でより効果的に免疫を誘導できるという利点があり、(抗体を介する)体液性免疫だけでなく、強固な細胞性免疫を誘導する可能性が多くの他種ワクチンと比較し高い。
・一部の改良型生ワクチンは、粘膜部位に直接投与(例:経鼻または経口)され、そこでは局所防御が可能な粘膜免疫を誘導する。
・不活化ワクチン(或いは死菌ワクチン)には、不活性化され感染や複製は不能であるが、抗原性的には完璧な微生物が含まれており、免疫反応を刺激することができる。
・不活化ワクチンは自然感染を模倣していないため、通常はそこまで強い免疫反応を得ることはできず、十分な粘膜や細胞性免疫が得られない可能性もあり、一般的には複数回の投与や十分に免疫反応を刺激するためアジュバンドを要すことが多い。
・しかし、不活化ワクチンの中には、例えば狂犬病ウイルスワクチンのように、珍しく強力なものもある。
・不活化ワクチンの中には免疫原性が高く、単回投与で長期にわたる予防効果が得られるものもある。
・子猫のFHVおよびFPVワクチンについても、不活化ワクチン単回投与後の血清状態の変化について示されている。
・その後に続くFHVウイルスの投与の研究では、不活化ワクチンにおいても投与後7日時点でMLVと同様な防御が得られている。
・しかし、ほとんどの不活化ワクチンにおいて、その動物の年齢に関係なく最低でも2回の投与が初回は必要と考えられている。
・一般的には初回投与にて免疫反応が準備され、それから2-4週間離れた2回目(時には3回目)の投与にて防御可能レベルの免疫反応が得られる。
・完全な防御免疫反応ができあがるのは、2回目or最終接種から2週間後となる。
・不活化ワクチンは、概して生ワクチンと比較しDOIが短く、防御を維持するためにより頻繁な再接種(ブースター接種)が必要となる。

・サブユニットワクチンは、培養液から抽出・精製された、あるいは組み換えDNA技術(遺伝子スプライシングやタンパク質発現など)を用いて合成された病原微生物の抗原サブコンポーネントから構成されたものです。
・サブユニットワクチンは、MLVワクチンよりも免疫原性が低い傾向があるため、通常は不活化ワクチンと同様アジュバントを含み、短いDOIを強化している(原文:engender a shorter DOIを意訳しています)。
・ライム病のサブユニットワクチンや、最近では犬用として販売されているボルデテラ・ブロンキセプティカ(フィンブリア抗原を含む)などのサブユニットワクチンがある。
※原文にはないですが、補足として、fimbrial antigens(フィンブリア抗原)は、細菌の表面に存在するフィンブリア(fimbriae)と呼ばれる突起構造の中に含まれる抗原を指します

・組み換えDNA技術は、最近CPVに対する新しい組み換え生ワクチンの製造に使用されている。
・新規のCPVコンポーネントはより従来から使用されるMLVであるCDVコンポーネントと組み合わされている。
・このワクチンは、前世代のワクチンよりも効果的にMDAの干渉を突破することで、幼若期(4週齢)の子犬をCPV感染から守ることを目的としている。
・このワクチンには、CPV-2cとCPV-2の一部である組換えキメラパルボウイルスゲノムが含まれる。
・製造時、組換えゲノムは、従来製造されていた弱毒生ワクチンと同様に、ワクチン接種を受けた子犬の細胞に感染し増殖することができる生きたパルボウイルスを製造するために使用された。

ベクターワクチンは組換えワクチンの一種で、1つ以上の病原体の免疫原性タンパク質をコードする1つ以上の遺伝子をベクターウイルスや生物のゲノムに直接クローニングしたものである(例:狂犬病ウイルス表在糖タンパク質遺伝子をスプライシングした弱毒カナリアポックスウイルスベクター)。
・この鳥類組換え型キメラウイルスは、哺乳類宿主ではごく限られた範囲でしか複製できないが、導入した遺伝子を宿主細胞表面で発現させ、自然感染を模倣することができる。
ベクターワクチンは病原性を復帰できず、またベクターは非病原性で時には免疫を刺激してくれるものが選択される。
・これらのワクチンは、通常アジュバンド無しに液性免疫と細胞性免疫の両方を誘導することができる。
・弱毒化カナリアポックスウイルスは、狂犬病、イヌジステンパー、FeLV感染に対するベクターワクチンに使用されている。

核酸ベースのワクチン(DNAおよびRNAワクチン)は、免疫時にウイルス抗原性標的タンパク質のコピーを産生するように核酸を操作することによって作られる比較的新しいワクチン形態である。
メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンは、今回のCOVID-19パンデミックの際に多くの人に知られるようになった。
・これらワクチンは一般に、超低温での輸送と保管を必要とする。
メッセンジャーRNAワクチンは、核酸を分解から保護し、細胞への取り込みとmRNAの放出を可能にする、脂質ナノ粒子などの送達システムを採用している。
・DNAはmRNAよりはるかに壊れにくいため、ネイキッドDNAワクチンの方がより強固である。
・現在、イヌやネコに使用可能なmRNAワクチンやネイキッドDNAワクチンはない。