⑩ネコの予防接種ガイドライン

【ネコの予防接種ガイドライン
<コアワクチンについて>
・世界のすべての地域において、ネコのコアワクチンはFPV、FHV、FCVを防御するものである。
・VGGは初期の3価コアワクチンを6-8週齢に接種し、その後2-4週間毎に追加接種を行い、16週齢あるいはそれ以降までの接種を、そしてそれに続く接種をすべてのネコがワクチン接種に反応できるようMDAが十分に減少する26週齢かそれ以降に行うことを推奨する。
・これらの推奨は、一部の子猫にてMDAの干渉が長く続くというエビデンスに基づいている。
・初期コアワクチン接種の回数は、接種を開始する年齢と、どの接種間隔を選択するかに依存する。
・26週齢またはそれ以降での推奨は、次年の約1歳でのワクチン接種の代わりになるものであり、それを受けたとしても1歳時点での健康診断が不要になるようなものではない。

狂犬病が流行している地域では、法律でネコへの接種が義務付けられていなくとも、ペットと人間の双方のために、すべてのネコに狂犬病ワクチンを接種することをVGGは推奨する。
・認可されているネコ用狂犬病ワクチンのDOIは通常1年または3年である。
・再接種の頻度は、第一に現地の規制、また規制がない場合はデータシートのDOIに基づくべきである。

・世界的に使用されているイヌ用コアワクチン成分(CPV、CDV、CAV)はすべて、適切に使用された場合、強力で長期にわたる防御を提供するが、FCVおよびFHVのコアワクチン成分によって提供される防御は、FPVワクチンによって提供される防御には及ばない。
・FCVワクチンは、複数のFCV株に対してある程度の交差防御免疫を産生する。
・しかし、完全にワクチン接種を受けた成猫でも感染や発病の可能性はある。
・感染を予防できるFHVワクチンは存在しない。
・感染すると、多くの場合ウイルスは神経組織に潜伏するようになり、ストレスがかかると再活性化する可能性がある。
・再活性化したウイルスは、ワクチン接種済みの動物に臨床症状を引き起こす可能性があり、またウイルスが感受性の高い動物に排出されることで、その動物に病気を引き起こす可能性もあります。

・MLVコアワクチンによる接種に反応した猫は、繰り返し接種を行わなくても、FPVに対する強固な免疫を何年も持続する。
・ FCVとFHVに対する免疫は部分的なものでしかなく、預かり施設でのストレスによって弱まる可能性がある。
・VGGは “低リスク”である成猫(単頭飼育、ホテルといったキャッテリーを利用しない室内飼育)の場合にはMLVコアワクチンの接種間隔を3年毎かそれ以上にすることを推奨する。
・ “高リスク”のネコについては、FCVとFHVを予防するためにより頻繁な追加接種(最大でも年1回)が必要となる可能性がある。
・ここには、定期的にホテルなどのキャッテリーを利用する場合や、潜在的に感染リスクのある他のネコと接触したりする場合も含まれる。
・ホテルを利用するネコの場合、FCV/FHVワクチンをホテル利用前1-2週間に接種することができる。
・一部の国では、一般的な3価のFPV/FCV/FHVワクチンと並んで、2価のFCV/FHVワクチンを利用することができる。
・これらの2価ワクチンにより、獣医師はFCV/FHVに対しては年1回、FPVに対しては3年に1回、またはそれ以下の頻度で高リスクのネコにワクチンを接種することができる。
・経鼻MLV (FPV/FHV/FCVまたはFHV/FCV)ワクチンが利用できる国もある。

・追加接種の頻度に関するこれらの推奨は、MLVワクチンに適用される。
・不活化FPVワクチンは通常、MLV FPVワクチンのような長期にわたる防御を提供しない。
・不活化FCV/FHVワクチンは、実験的に部分的な予防効果を長期間持続することが示されている。
・しかし、この研究で用意された環境は非常に安定しており、猫にとって「低ストレス」であった可能性が高い。
・ 典型的なホテル・キャッテリーの状況とは異なっていた。

・このガイドラインの最新版において、VGGはFeLV関連疾患の発生が確認されている地域において、FeLVワクチンをコアワクチンとして指定することを決定した。
・これらの地域では、この指定は若いネコ(1歳未満)と、外に出られる高齢猫、または外に出られる他のネコと同居している高齢猫に適用される。
・世界には、FeLV感染が稀であることが確認済みである地域や、診断されるとしても稀であり輸入猫においてのみFeLV関連疾患が診断される地域がある。
・FeLVおよびFeLV感染症への曝露は、制御プログラムの成功により、現在、世界の多くの地域で著しく減少している。
・改善率が頭打ちになっている可能性もあるため、この事実を自己満足の理由にしてはならない。
・VGGは、個々の猫のライフスタイルと確認可能な暴露リスクに基づいたFeLVワクチンの使用を全面的に支持する。
・FeLV感染が依然として流行する多くの地域において、すべての1歳未満のネコは定期的なワクチン接種によって予防の恩恵を受けるべきである。
・このような場所では、FeLVワクチンは若齢猫、そして屋外に出る機会のある高齢猫においてもコアワクチンとして考慮するべきである。
・咬傷が成猫におけるFeLV感染経路として認識されてきているため、老齢猫を監視なしで屋外に出す場合には防御が必要である。 
・屋外での咬傷リスクのある成猫に対して、どれくらいの頻度でFeLVワクチンを追加接種すべきかについては、さらなる研究が必要である。
・FeLVに対する2年または3年に1度の再接種を支持する投与試験は、咬傷経由で感染するFeLVに対する長期的な防御を直接証明するためにデザインされたものではない。

・FeLV感染が極めて稀である地域を除き、毎年の健康診断では、FeLVワクチン接種の費用、リスク、潜在的な利益を考慮する必要がある。
・FeLV陰性の猫にのみワクチン接種を行うべきである。
アジュバンドの付与されている不活化全粒子ウイルスワクチン、サブユニットワクチン、そしてリコビナントワクチン、ウイルスベクターワクチン(カナリアポックスウイルス)、アジュバンド非添加ワクチン等様々なワクチンが利用可能である。
・これらのワクチンは、進行性のFeLV感染と関連疾患に対する予防効果を持つが、FeLV感染が起因するすべての転帰を予防できるわけではない。

・ワクチン接種歴が不明または不完全である成猫がワクチン接種のために受診することはよくあることである。
・MLV FPVワクチンを1回接種することで、生後26週齢以上の大多数のネコに対し長期にわたる免疫を十分に誘導できる。
・しかし、FPV、FHV、FCVを含むMLVワクチンの製造業者の多くは、2-4週間の間隔で2回接種することを推奨している。
・MLV FHVおよびFCVワクチンはMLV FPVワクチンよりも効力が弱いことから、VGGはこの推奨を支持する。
・不活化コアワクチン(FPV、FHV、FCV、FeLV)を使用する場合、予防のため2回接種が推奨されることは重要である。

<ノンコアワクチンについて>
・ネコ用のノンコアワクチンには、クラミジア・フェリス、ボルデテラ・ブロンキセプティカ、猫免疫不全ウイルス(FIV)を予防するものがある。

クラミジア・フェリスに対するワクチンは、感染や病気に対する不完全な防御を供給する。
・これらのワクチンは、この病原体が過去に病気を引き起こした家庭における多頭飼いのネコに推奨される。
・弱毒生ワクチンとアジュバント添加不活化非経口ワクチンがある。
・これらのワクチンは、8-9週齢の子猫に使用され、2回目の投与が2-4週間後に必要であり、さらに暴露リスクが継続する成猫では年1回の追加接種を行う。

・一部の国で入手可能なネコB.bronchisepticaワクチンは、例えば大規模な集団として飼育されているなど、リスクの高い状況のネコへの使用が検討される。
・弱毒化された経鼻ワクチンで、生後4週間以上の子猫に1回接種し、年1回の追加接種が必要となる。

・これまでに認可されたFIVワクチンは1種類のみである。
・ヨーロッパでは認可されたことがなく、2017年にはアメリカとカナダで販売中止となった。
・このワクチンは現在も日本、オーストラリア、ニュージーランドで入手可能である。
・異種のFIV経口試験に対するこのワクチンの有効性は実験的には示されているが、異なる地域で発見された多くのFIV亜型に対して効果的に交差防御できるかどうかについては長い間議論がされている。
・実験的研究では相反する結果が得られており、ワクチンによっては強力な防御を示すものもあれば、防御を示さないものもある。
・オーストラリアで、優れたデザインの回顧的な実地調査が実施された。
・その研究論文では、ワクチンを接種済みのネコでの防御率は56%であった。
・しかし、この研究は統計的評価が不十分であった。
・この研究の信頼区間は非常に大きく(20-84%)、ワクチン接種済のネコとワクチン未接種ネコでの感染率に統計的な有意差はなかった。
・より最近の野外研究では、ニュージーランドの環境下においてワクチンによる防御が不十分であることが示された。
・ 2つの異なる環境において、これら研究はいずれもこのワクチンの有効性または有効性の欠如について説得力のある証拠を提供するものではなかった。
・さらなる研究が必要である。

・その間に、VGGは唯一市販されているFIVワクチンを "ノンコア "と分類し続けることを決定した。
・FIV感染からネコを守る最も効果的な方法は、FIV感染ネコに咬まれる危険性のある、監視のない屋外への出入りを制限することである。
・しかし、飼い主の中には、ネコを屋内や保護された屋外の囲いの中に入れて保護することに納得できない人もいる。

・最近まで、このFIVワクチンの使用はFIV感染の診断を複雑にしていた。
・ワクチン接種は抗体の産生につながり、その抗体は、存在するかどうかがFIV感染の診断に用いられるものであった。
・幸いにも、ワクチン接種後すぐに検査を行わない限り、FIV感染猫と非感染猫を判別できる抗体検出キットが市販され、実用化されている。
・FIV感染診断用のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査も信頼性が高まり、より広く利用されるようになった。

・FIVワクチンは不活化アジュバント製剤で、生後8週齢から子猫に接種され、さらに2-3週間の間隔をあけて2回追加接種し、その後の追加接種は12ヵ月後となる。
・曝露のリスクが継続するネコには、その後も年1回の追加接種が推奨される。
・ワクチンによる防御が不完全である可能性が高いため、年1回の再検査が必要である。
・ 感染していない猫にのみ接種する。

・VGGは、国によってはコアワクチンとノンコアワクチンが組み合わされた多成分製剤しかネコに使用できないことを把握しており、可能な限り全種類のワクチンを使用できるようにするか、少なくともノンコアワクチンの使用が正当化されない場合、コアワクチンだけの混合ワクチンを使用できるようにすることを製造業者に奨励する。

・免疫不全のネコへのワクチン接種は、優れた総説にて近年その推奨が示されている。

<非推奨ワクチンについて>
・ネコへの猫伝染性腹膜炎FIP)ワクチンは推奨されていない。
・このFIPワクチンが臨床的に適切な防御をもたらすというエビデンスは不十分である。
・ワクチン接種時に猫コロナウイルス抗体が陰性である確認がとれているネコにおいてのみ、ある程度の防御を獲得する可能性はある。
・このワクチンは生後16週齢からの投与と表示されているが、多くの子猫はそれ以前にコロナウイルスに感染する。
・さらに、このワクチンにはFIPウイルスの血清型II株が含まれており、この株はアメリカやヨーロッパで優勢である血清型I株との交差反応性防御を誘導しない。

ジアルジアやMicrosporum canisに対する予防を目的としたネコ用ワクチン(世界の一部で入手可能)も、有益であるという科学的根拠が不十分であるため推奨されていない。