⑪【シェルターやサンクチュアリにおけるイヌネコのワクチン接種(保護施設での予防接種)】

【シェルターやサンクチュアリにおけるイヌネコのワクチン接種】
・家のない動物を収容するためのシェルターには2つの基本的なタイプがある。
・1つは家庭に迎えられるまでの一時的な住居を提供する伝統的なシェルターであり、もう1つは動物が終生そこに居続けるサンクチュアリである。
・伝統的なシェルターでは、動物の出入りが絶えず、入れ替わり率が高く、居住期間が短い。
サンクチュアリは、長期的な居住と入れ替わりの少なさに基づいて、より安定した個体数を有している。
・どちらのタイプのシェルターにおいても、平均的な収容頭数は数十頭から数百頭である。
・どちらのタイプも、地域社会における無作為な供給源から動物を受け入れており、そのほとんどは獣医療ケアを受けたことがないため、伝染病の侵入と蔓延、風土病定着のリスクが大幅に高まる。

・シェルター内にて疾病暴露リスクが高いということは、個々の動物だけでなく、個体群全体を防御する強固なワクチン接種プログラムを必要ということに繋がる。
・暴露リスクの低い家庭環境において個々の動物に最適であることが、リスクの高いシェルター環境で理想的ということにはならない。
・シェルター獣医師会(The Association of Shelter Veterinarians)のアニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版では、“シェルターのワクチンプロトコルは、シェルター内の動物は感染症リスクが高いため、民間の動物病院で使用されているプロトコルとは異なる…重要な違いとして[シェルターワクチン]プロトコルは一般の動物病院で推奨されるものと比較し若齢動物への接種期間が早期から始まり、また長期であること、接種間隔が短いこと、コアおよびノンコアワクチンの種類が異なることが挙げられる”と言及されている。

・シェルターでは、どのワクチンを投与するか、どの動物に投与するか、いつ投与するかを決定するためのリスクアセスメントは、個々の動物だけではなく、集団全体に対して行われる。
・ シェルターでのワクチン接種プログラムをベストな状態で実施し、個体と集団全体を守るために重要となる3つの要素が存在する
①    収容時にすべての動物にコアワクチンを接種する。
②    迅速な防御を与えるワクチンを使用する。
③    若齢動物に対する初期ワクチン接種を1カ月齢から開始し、シェルターにいる間は2-3週間毎に5カ月齢になるまで追加接種を繰り返す。

・CDV、CPV、FPVは、シェルターのイヌやネコの生命を脅かす疾患をよく引き起こす。
・すべてのシェルターはこれらの病原体に曝されるリスクが高く、ほとんどがアウトブレイクからの動物の苦痛や死亡が生じることなど犠牲の大きい影響を受けてきた。
・CDV、CPV、FPV感染は最も高い死亡率を引き起こすが、伝染性呼吸器感染症はシェルターで最も頻繁に発生する疾病である。
・B.bronchiseptica、CAV-2、CPiVおよびCDVは、シェルターのイヌにおいて流行っている呼吸器病原体である。
・FHVとFCVはシェルターのネコにおいて最も流行している呼吸器系病原体である。

・生後6ヶ月未満の子犬や子猫のほとんど、そして成犬や成猫の30%から50%は、アメリカのシェルターに収容される際、CDV、CPV、FPV、FHV、FCVに対する抗体がほとんど検出されないか、全く検出されなかった。
・このことは、多くの動物が病気に対する防御が不十分な状態でシェルターに収容されることを示している。
・そのため、シェルターでの疾病対策として、できるだけ多くの個体に早期に予防接種を行うことが最も重要である。
・礎となるのは、すべてのイヌとネコに対して、収容後すぐにワクチン接種を行うことである。
・1日の遅れが、集団内での感染や疾病拡大のリスクを著しく高めてしまう。
・ワクチン接種が遅れると、一般家庭の動物と比較しシェルター内の動物ではその影響がより大きくなってしまう。

<シェルター施設におけるイヌとネコのコアワクチン>
・生ワクチンは一般的に不活化ワクチンよりも免疫の発現が早く、MDAの干渉を早く突破できると考えられているため、シェルターで選択されるワクチンとされている。
・シェルター内のイヌ用のコアワクチンには、CDV、CPV、CAV-2、CPiV、ボルデテラブロンキセプチカの弱毒生ワクチンが含まれる。
・シェルター内のネコ用のコアワクチンには、FPV、FHV、FCVの弱毒生ワクチンが含まれる。

・すべてのイヌやネコに弱毒生のコアワクチンは包括的に接種すべきである。
・これには、放浪動物、飼い主から引き渡されたペット、狂犬病検疫のために収容された動物、残酷なケース、妊娠中または授乳中の動物、軽い病気や怪我をした動物、trap-neuter-release(TNR)またはreturn-to-field(RTF)プログラムのために収容された地域のイヌやネコが含まれる。
・一般家庭で生活している妊娠中、罹患中、怪我をしたペットに特定の生ワクチンを接種することは勧められないが、シェルター環境においてこれらのワクチンによって得られる迅速な防御は、胎児や動物自身へ被害を与えるリスクを上回る。
・要するに、イヌやネコがシェルターに収容される際、安全に生ワクチンを接種できない場合、その動物がシェルターにとどまることは感染のリスクが大きすぎる。
・経済的な理由により、シェルターは引き取られる可能性のあるイヌやネコだけにワクチン接種を行い、安楽死のリスクのあるイヌやネコにはワクチン接種を行わないという誘惑に駆られるかもしれない。
・ワクチン接種を飼育可能な動物に制限することは、感受性の高い動物集団を大量に生み出し、施設内での感染症の発生やアウトブレイクを引き起こし、ワクチンよりも費用のかかる状況をもたらす。

・一般家庭で飼育されている子犬や子猫へのワクチン接種は通常、生後6-8週齢から開始し、少なくとも生後4ヶ月齢までは3-4週間間隔で繰り返される。
・一方、シェルターに入る子犬や子猫へのワクチン接種は生後1ヶ月齢から開始し、移行抗体による干渉をできるだけ早く突破するために、2-3週間ごとに追加接種を行う。
・子猫の最大37%、子犬の一定以下の割合で、4ヶ月齢以降の1回あるいはそれ以上の回数のコアワクチン実施後でさえも、その反応に持続的なMDAの干渉が起こることが示されている。
・そのため、予防原則に基づきシェルターの獣医師は、シェルターの子犬や子猫のワクチン接種を、コアワクチンで5ヶ月齢まで継続することを推奨する。
予防原則はまた、5ヶ月齢以上のシェルター内のイヌに2-3週間の間隔をあけて弱毒生コアワクチンを2回接種することを推奨する根拠でもある。

・B.bronchiseptica±CPiVワクチンは家庭環境で飼育されているイヌにとってはノンコアワクチンであるが、シェルターで飼育されているイヌにとっては、暴露や伝播のリスクが高く、非常に高い罹患率をもたらすため、コアワクチンとなる。
・すべての成犬および3週齢以上の子犬は、収容時にCPiV生ワクチンを含むB.bronchiseptica経鼻生ワクチンを接種すべきである。
・これらのワクチンは3-7日の内に両方の病原体に対する迅速な粘膜免疫応答を誘導し、病原体の排出やシェルターの感染症を顕著に減少させる。
・経鼻ワクチンの投与が適さない場合には、経口B.bronchisepticaワクチンを成犬および7 or 8週齢以降の子犬に投与することができる(どちらのワクチンを選択するかによって異なる)。
・一部の国では、この経口ワクチンにもCPiVが含まれる。
・経口ワクチンは経鼻ワクチンとほぼ同等の効果があり、また細胞抗原抽出物を含む非経口不活化B.bronchisepticaワクチンよりも優れていることが研究で示されている。
・経鼻ワクチンと経口ワクチンは、移行抗体によって不活化されず、13ヶ月のDOIが付与されるため、収容時に1回接種するだけでよい。
・すべてのシェルター内のイヌに対し、収容時にCDV、CAV-2およびCPiVを含む非経口ワクチンとB. bronchisepticaやCPiVの経鼻ワクチンを接種することは、呼吸器疾患の発生を減少させることと関連する。

・FPVを含む非経口生ワクチンは、迅速かつ強固な免疫を誘導するために、シェルターのネコに使用されるべきである。
・一部の国ではFHVとFCVを含む経鼻生ワクチンも入手可能である。
・これらは4-6日以内という速さで防御を誘導するため、シェルター内のネコにとって有利である。

狂犬病ウイルスは、狂犬病流行地域におけるシェルター内のイヌやネコにおいてはコアワクチンである。
・ 動物の滞在期間が短期であるシェルターでは、地域の狂犬病ワクチン接種要件を確実に遵守するため、収容時にワクチン接種を行うことが望ましい。
サンクチュアリで過ごす、またはシェルターに何ヶ月も滞在することが予想されるすべてのイヌやネコは、地域の法律に従って収容時に狂犬病ワクチンを接種すべきである。
・長期型のシェルターやサンクチュアリにおけるイヌやネコの追加接種は地域の法律に従うべきである。

<<シェルター施設におけるイヌとネコのノンコアワクチン>
・ボレリア・バーグドルフェリ(ライム病)ワクチン、レプトスピラワクチン、H3N8/H3N2犬インフルエンザワクチンは、シェルター内のイヌへの使用が制限されているノンコアワクチンである。
・その地域あるいはシェルター内での記録に基づく疾患の暴露リスクが高い場合、製造業者の指示に従って、シェルター内のすべてのイヌ、および新しく収容されるイヌに対して初回ワクチン接種シリーズを開始すべきである。
・短期滞在型のシェルターでは、多くのイヌが初期ワクチン接種シリーズを終了する前にシェルターを去るため、引き取り手にはその後対応する獣医師とフォローアップとしての追加接種を行うよう奨励すべきである。
・暴露の実質的なリスクがある場合、ボレリア、レプトスピラ症、またはCIVワクチンは、サンクチュアリのような終生滞在する長期型シェルターにいるイヌ、または数カ月に及ぶ長期のシェルター滞在が予想されるケースでのワクチン接種プログラムに含めるべきである。

・FeLVワクチンはシェルターのネコにおいてノンコアワクチンである。
・2020年のAAFP Feline Retrovirus Testing and Management Guidelinesでは、FeLVワクチン接種前に全てのネコにFeLV感染有無について検査すべきとされている。 ワクチン接種状態が不明のネコが、後にFeLVに感染していると判明した場合、ワクチンの有効性が疑われ、ワクチンの失敗が疑われるからである。そのため初回接種前に検査をすべきである。
・十分な資金があるシェルターでは、未感染のネコ全頭に検査とワクチン接種を行うことを選択できるかもしれないが、それほど資金がないシェルターの場合、収容されている個々のネコに対しては、ウイルス感染のリスクが低いためFeLV検査とワクチン接種は必須ではない。
・このようなシェルターでは、引き取り手は検査やワクチン接種について獣医師と相談するよう指示されるべきだろう。
・ネコを集団飼育しているシェルターの場合、FeLV検査は集団に収容する際に未感染のネコを特定するために不可欠である。
・集団飼育されているネコへのFeLVワクチン接種は、滞在期間に基づいて行われる。
・このワクチンは長期滞在型のシェルターやサンクチュアリで集団飼育されているネコに推奨されているが、短期滞在型のシェルターで集団飼育されているネコには推奨されていない。
・このようなシェルターからワクチン未接種のネコを引き取る場合、新しい家でのネコの生活様式に基づいて、ワクチンを接種するかどうかを獣医師と相談したほうがよいだろう。

・Bordetella bronchisepticaおよびC. felisワクチンは、細菌感染症が呼吸器感染症の原因としてあまり流行していないため、シェルター内のネコではノンコアワクチンである。
・シェルターでB.bronchiseptica感染が確認され、肺炎に罹患した咳をしているネコがいる場合、B.bronchiseptica経鼻生ワクチンが必要となる。
・そのような状況下では、集団免疫を成立させ病原体の伝播を阻止するために、収容時に1ヶ月齢以上のすべてのネコに経鼻生ワクチンを数ヶ月間投与すべきである。
・同様に、C.felisワクチンはその感染による疾病が確認されているシェルターでは感染制御プログラムの一部となる可能性がある。
・B.bronchisepticaはイヌとネコにおいて種間感染を起こす可能性がある。
・ネコにB. bronchisepticaの疾病があるシェルターでは、その場でイヌも収容している場合、またはスタッフがイヌとネコの両方を扱っている場合、種間感染の可能性を考慮すべきである。

・シェルターやTNRやRTF計画では、予防接種と不妊手術の同時実施はイヌやネコに対し広く行われている。
・予防接種は不妊手術などの処置と別に実施することが理想的ではあるが、麻酔や手術がワクチン接種に対し抗体反応を著しく低下させないということが、いくつかの研究で証明されている。