⑫【ワクチン接種後の有害事象】

【ワクチン接種後の有害事象(Adverse Events Following Vaccination = AEFVs)】
・有害事象とは、ワクチン投与後に起こる(効果の欠如を含む)有害で予測のできない事象である。
・ 過敏反応、疾患、傷害、または明らかな毒性作用も含まれる。
・注射部位の疼痛や腫脹などの局所反応や、嗜眠、食欲不振、発熱、嘔吐などの全身的な症状が一般的に認められる。
・蕁麻疹やアナフィラキシーはあまり一般的ではない。
・AEFVは、ワクチン接種との関連が疑われるだけでも報告されるべきである。
・各ワクチンにおける有害事象の報告書には、関連するワクチン製品(バッチ番号を含む)、関与した動物の詳細、有害事象の詳細、および報告書を提出した獣医師からの情報を明記しなければならない。

・獣医師から報告されたAEFV疑いの情報において、現場での観察内容は、製造業者や規制当局がワクチンの潜在的な安全性や有効性の問題を評価するため注意を払う最も重要な箇所である。
・認可前の安全性調査では、比較的一般的な有害事象しか検出できない。
・より稀な有害事象は、市販後のサーベイランスや報告された有害事象の分析を通じて検出される。
・報告は製造業者と現地の規制当局に送らなければならない。
・国によっては政府のサーベイランス制度がまだ存在しないため、AEFVは製造業者にのみ報告される。
・VGGは、AEFVの報告がひどく過小に報告されていることを認識している。
・これはワクチン製品の安全性と有効性に関する知識の発展を妨げる。
・VGGは、すべての獣医師がワクチン接種後の有害事象を疑う事象の報告に積極的に参加することを強く奨励している。

・ワクチンにおける効果の欠如も有害事象である。
・前述の通り、幼若動物での一般的な原因は、母体由来の初乳中の抗体による干渉である。
・しかし、他にも重要な原因は存在する。
・意外と多い問題として、ワクチン管理の不備も原因の可能性がある。
・動物病院では、ワクチンの管理、監視、報告を担当する特定のスタッフを指名すること を検討すべきである。
・吸い上げて、注射される前に何時間も放置され、その構成成分が変化してしまったワクチンは効力を失う可能性がある。
・これは特にCDVのような壊れやすいワクチン成分に影響する。
・冷蔵庫と冷凍庫の距離が近すぎると、ワクチンが凍結し、効力が失われることがある。
・古い冷蔵庫は特にこの傾向が強く、また密封に欠陥がありワクチンが十分な低温(一般に2-8℃)で保存されていない可能性もある。
・マルチドーズバイアル(例えば、狂犬病ワクチン10回分を1バイアルに入れたもの)の使用では、ワクチン懸濁液が毎回汲み上げられる前に十分に混合されていない場合、効力不足につながる可能性がある。
・またこれは、接種される動物の一部に過剰投与を引き起こし、過敏反応や注射時の疼痛、接種後の腫脹など、他種類の有害事象の発生する可能性を高めてしまう可能性がある。

・家庭の成犬の体格と体重ではほぼ100倍に及ぶ大きい差があるにもかかわらず、ワクチン製造業者がすべての体格の成犬に同じ量のワクチンを接種するよう推奨し続けていることは興味深い。
・さらに、ほとんどのワクチンにおいて、幼い子犬に投与される量は、はるかに大きく成長した成犬に投与される量と同等である。
・逆にヒトの場合では最近、幼児には成人と比較して少量のCOVID-19ワクチンを使用することが決定された。
・高齢者では、より高用量のインフルエンザワクチンが接種される。

・すべての大きさ、年齢の犬に同一用量を投与することは、現在も標準的な処置であり、VGGはこの点に関して獣医師が製造業者のアドバイスから逸脱することを奨励しているわけではない。
・しかし、小型犬の方がワクチン接種後の有害事象が発生しやすいことは注目に値する。
・副反応発生率は、同一診察時に、より多くの別種のワクチンが接種された時ほど高くなる。
・大型犬や巨大な犬では、小型犬に比べて、狂犬病ワクチン接種に関して十分な免疫反応を示す可能性が低い。
・1つの研究では、体重と抗CPV / 抗CDV抗体の反応の大きさとは、逆の相関を示した。
・小型犬は大型犬や巨大犬よりも強い抗体反応を示したが、結果的にはどのサイズのイヌでも十分な防御反応が得られた。
・米国で最近実施された極めて大規模なイヌの集団(約500万頭)を対象とした研究によると、犬種は、体重とは独立した有害事象の可能性を決定する要因であると示された。
・一部の犬種は、急性の有害事象を経験するリスクが一般集団よりもはるかに高い。
フレンチブルドッグダックスフンドボストンテリアにて最もリスクが高かった。
・小型犬(体重<5kg)の場合、1回の診察で複数のワクチンを接種することが、特に目立つリスク因子であった。
・個々の犬に対する適切なワクチン投与量については、ペットの体格や犬種が非常に多様であることから、さらなる研究が必要である。

・将来的には、AEFVsの定義が拡大され、免疫不全の飼い主に対するペットのワクチン接種後の稀かつ潜在的であるが、実際の健康被害である有害事象を明確に含めるようになるかもしれない。
・例えば、粘膜投与の改変された細菌生ワクチン(B. bronchisepticaワクチンの一部など)は、嚢胞性線維症患者を含む一定人数のヒトに健康被害をもたらすことが最近示唆されている。
・リスクは低いと思われるが、免疫不全の飼い主には、粘膜投与B.bronchiseptica生ワクチン接種中は診察室から退室してもらうのが賢明かもしれないと示唆されてきた。
・このことで、どのような飼い主に退室を求めるべきか、どのように判断するべきかという疑問を獣医師は抱いている。
・伴侶動物の医療において、飼い主の免疫学的状態について質問することは、まだ一般的な行為ではない(しばしば飼い主が自らそれらの情報を伝えてくる場合はある)。
・サブユニットワクチンや不活化B.bronchisepticaワクチンの使用は、これらのワクチンによって同等の防御が付与されると考えると、免疫不全の飼い主にとってより安全であると想定される。

<ネコの注射部位肉腫について>
・ワクチンやその他の注射製剤は、ネコ注射部位肉腫(FISS)の発症に関与している。
・FISSは多くの研究の対象となっており、複数の総説がある。
・初期に特に注目されたのは、その頃は目新しいものであったアジュバント添加FeLVワクチンと狂犬病ワクチンであった。
・初期の研究で、これらのワクチンがFISSの発症と関連していることが示された。
・FISSの病因は不明確なままである。アジュバント非添加ワクチンよりもアジュバント添加ワクチンの方が病因に関係する可能性が高いという証拠がいくつかあるが、この証拠は説得力がないと主張する専門家もいる。
・ワクチンアジュバントの中には炎症反応を引き起こすものがある。
・そのため、局所的な慢性炎症反応における間葉系細胞が、悪性腫瘍性転換を起こすと推測されている。
・ネコの眼外傷後肉腫は通常、頭部外傷の後に発症し、多くの場合、何年も経ってから発症するが、それと同等な病因原因を持つ可能性がある。
・ネコは(イヌやヒトと比較し)特にこういった形態の新生物に罹患しやすい。

・ほとんどの皮下注射(ワクチンを含む)は従来、猫の肩甲骨間に行われてきた。
・ここがFISSの発生にとって解剖学的に困難な場所であることに変わりはない。
・これらの腫瘍は浸潤性であるため、しばしば根治的外科切除が試みられてきた。
・腫瘍が肩甲骨間に由来する場合、手術は失敗に終わることが多い。
・治癒可能性を高めるために、補助的な治療法(免疫療法、化学療法、放射線治療)が手術と併用されることが多い。
・これは高価であり、しばしば失敗する。
・肩甲骨間で成長する腫瘤は、かなり大きくなるまで発見されないことがある。
・ネコでは、この解剖学的位置に皮下注射を行わないことが推奨される。

・北米では、FISSに対応し、特定のワクチンが他よりも関与が強いという見解を受けて、“左肢に白血病”(すなわちFeLVワクチン)と“右肢に狂犬病”(すなわち狂犬病ワクチン)が推奨され、広く受け入れられた。
・当初は後肢が選ばれ、できるだけ遠位、できれば膝かそれより遠位側に注射することが推奨された。
アメリカの大部分の獣医師は、この30年間でネコのこれらの解剖学的位置に皮下接種することに熟達した。
・ワクチン接種をこの解剖学的位置にすることは、現在のAAHA/AAFPガイドラインにおいても推奨されている。
・VGGはこのアプローチを強く支持する。
・ワクチンの皮下注射は筋肉内注射より望ましい、それは筋肉内のFISSは一般的に皮下のFISSよりも検出が難しいからである。

・しかし、北米よりもはるかにFISSが少ないと考えられている、または知られている国もあり、そこの獣医師はネコワクチンを四肢遠位へ注射することに対し消極的である。

ある国では、背側正中線から4cm外側、肩の筋肉の凸部上にワクチンを接種するという推奨が、開業医の意見を取り入れた地元のガイドライングループにて作成された。
・この提案は、その解剖学的部位における進行性のFISS外科的切除は治癒可能性が高いという誤った考えに基づいているわけではない。
・その理論は、ワクチン接種後のどの腫瘤であっても大きくなった際に目立ちやすくなり、肩甲骨間での発生よりもはるかに早く発見され、治療を早期に行うことができ、治療が成功する可能性も高まるというものである。
・四肢遠位端へのワクチン接種は依然としてゴールドスタンダードな方法であり、強く奨励される。

・VGGは2020 AAHA/AAFP Feline Vaccination Guidelinesに示された "3-2-1 "ルールまたはアプローチを強く支持し推奨する。
・ワクチン接種後のどの腫瘤であっても、(1)接種後3ヶ月経過しても存在する(2)時期に関わらず直径が2cm以上である、(3)接種後1ヶ月経過してもまだ増大しているものは、切開生検を受けるべきである。
・切除生検よりも切開生検が推奨されるのは、診断がFISSであった場合、その腫瘍の外科的切除は根治的となる必要があり、診断生検には適さない大規模な手術を伴う可能性が高いからである。

・2014年の研究において、ネコの尾にFVPワクチンと狂犬病ワクチンを投与することでの有効性が示された。
・地域TNRプログラムの成猫に、3価MLVコアワクチン(FPV、FHV、FCV)を尾部の背側遠位3分の1に接種し、不活化狂犬病ワクチンを3価ワクチン接種部位から2cm遠位に接種した。 
・FPVについてはすべてのネコで、狂犬病ウイルスについては1頭を除くすべてのネコで血清陽転が起こった。
・この小規模な研究では、尾へのワクチン接種をネコはよく我慢してくれたと報告されている。
・尾への注射は将来、四肢遠位への注射に代わる選択肢となることが証明されるかもしれないが、尾への予防接種についてはさらなる研究が必要である。

・VGGではネコのFISSと解剖学的注射部位に関し、以下のコメントと推奨がされている。
 ・猫の肩甲骨間への皮下注射は行うべきではない。
 ・皮下注射が法的に別の選択肢として存在する場合、ワクチンを筋肉内に接種すべきでない。
 ・ワクチンは使用ごとに異なる解剖学的部位に注射すべきである。
 ・どの種類のワクチンも完全に安全であるとは言えない。
 ・FISSのいかなるリスクも、ワクチンによってもたらされる防御免疫の恩恵と比べるとはるかに劣る。
 ・FISSの発症はまれであり、国や地域によっては他地域と比較しはるかにその発祥が少ないこともある。

・FISSの病因におけるアジュバントと慢性炎症の役割は不明であるが、アジュバント非添加ワクチンと比較しアジュバント添加ワクチンの方がFISSへの関与が示唆されるエビデンスがやや多く存在する。
・このエビデンスをどう解釈するかについて、専門家の間でも意見が分かれている。
・専門家の中には、このエビデンスが非常に弱いため、ある種のネコ用ワクチンを他ワクチンより支持しないとするものもいる。
・しかし、VGG は他の専門家と同意見であり、FISS の発生が知られ、代替ワク チンが選択可能な国であれば、アジュバント添加ワクチンよりもアジュバントを添加していないワクチンの使用を推奨する。
・使用可能な代替ワクチンがない場合、ワクチン接種を実施しないことと比較すると、アジュバント製剤を使用する方がはるかに望ましい。

・注射の解剖学的部位は、患者のカルテまたは予防接種カードに、図などを用いて記録し、どの製剤がどの機会に投与されたかを示すべきである。
・使用部位はその都度“ローテーション”されるべきである。
・代わりに、動物病院によっては、1年中すべてのネコワクチンを特定の部位に接種し、翌年にはその部位を変更するというグループ方針を決めた場所もある。

・VGGは、FISSが疑われるすべての症例について、その国の適切な副作用報告ルート、あるいはワクチン製造業者に報告することを推奨する。

⑪【シェルターやサンクチュアリにおけるイヌネコのワクチン接種(保護施設での予防接種)】

【シェルターやサンクチュアリにおけるイヌネコのワクチン接種】
・家のない動物を収容するためのシェルターには2つの基本的なタイプがある。
・1つは家庭に迎えられるまでの一時的な住居を提供する伝統的なシェルターであり、もう1つは動物が終生そこに居続けるサンクチュアリである。
・伝統的なシェルターでは、動物の出入りが絶えず、入れ替わり率が高く、居住期間が短い。
サンクチュアリは、長期的な居住と入れ替わりの少なさに基づいて、より安定した個体数を有している。
・どちらのタイプのシェルターにおいても、平均的な収容頭数は数十頭から数百頭である。
・どちらのタイプも、地域社会における無作為な供給源から動物を受け入れており、そのほとんどは獣医療ケアを受けたことがないため、伝染病の侵入と蔓延、風土病定着のリスクが大幅に高まる。

・シェルター内にて疾病暴露リスクが高いということは、個々の動物だけでなく、個体群全体を防御する強固なワクチン接種プログラムを必要ということに繋がる。
・暴露リスクの低い家庭環境において個々の動物に最適であることが、リスクの高いシェルター環境で理想的ということにはならない。
・シェルター獣医師会(The Association of Shelter Veterinarians)のアニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版では、“シェルターのワクチンプロトコルは、シェルター内の動物は感染症リスクが高いため、民間の動物病院で使用されているプロトコルとは異なる…重要な違いとして[シェルターワクチン]プロトコルは一般の動物病院で推奨されるものと比較し若齢動物への接種期間が早期から始まり、また長期であること、接種間隔が短いこと、コアおよびノンコアワクチンの種類が異なることが挙げられる”と言及されている。

・シェルターでは、どのワクチンを投与するか、どの動物に投与するか、いつ投与するかを決定するためのリスクアセスメントは、個々の動物だけではなく、集団全体に対して行われる。
・ シェルターでのワクチン接種プログラムをベストな状態で実施し、個体と集団全体を守るために重要となる3つの要素が存在する
①    収容時にすべての動物にコアワクチンを接種する。
②    迅速な防御を与えるワクチンを使用する。
③    若齢動物に対する初期ワクチン接種を1カ月齢から開始し、シェルターにいる間は2-3週間毎に5カ月齢になるまで追加接種を繰り返す。

・CDV、CPV、FPVは、シェルターのイヌやネコの生命を脅かす疾患をよく引き起こす。
・すべてのシェルターはこれらの病原体に曝されるリスクが高く、ほとんどがアウトブレイクからの動物の苦痛や死亡が生じることなど犠牲の大きい影響を受けてきた。
・CDV、CPV、FPV感染は最も高い死亡率を引き起こすが、伝染性呼吸器感染症はシェルターで最も頻繁に発生する疾病である。
・B.bronchiseptica、CAV-2、CPiVおよびCDVは、シェルターのイヌにおいて流行っている呼吸器病原体である。
・FHVとFCVはシェルターのネコにおいて最も流行している呼吸器系病原体である。

・生後6ヶ月未満の子犬や子猫のほとんど、そして成犬や成猫の30%から50%は、アメリカのシェルターに収容される際、CDV、CPV、FPV、FHV、FCVに対する抗体がほとんど検出されないか、全く検出されなかった。
・このことは、多くの動物が病気に対する防御が不十分な状態でシェルターに収容されることを示している。
・そのため、シェルターでの疾病対策として、できるだけ多くの個体に早期に予防接種を行うことが最も重要である。
・礎となるのは、すべてのイヌとネコに対して、収容後すぐにワクチン接種を行うことである。
・1日の遅れが、集団内での感染や疾病拡大のリスクを著しく高めてしまう。
・ワクチン接種が遅れると、一般家庭の動物と比較しシェルター内の動物ではその影響がより大きくなってしまう。

<シェルター施設におけるイヌとネコのコアワクチン>
・生ワクチンは一般的に不活化ワクチンよりも免疫の発現が早く、MDAの干渉を早く突破できると考えられているため、シェルターで選択されるワクチンとされている。
・シェルター内のイヌ用のコアワクチンには、CDV、CPV、CAV-2、CPiV、ボルデテラブロンキセプチカの弱毒生ワクチンが含まれる。
・シェルター内のネコ用のコアワクチンには、FPV、FHV、FCVの弱毒生ワクチンが含まれる。

・すべてのイヌやネコに弱毒生のコアワクチンは包括的に接種すべきである。
・これには、放浪動物、飼い主から引き渡されたペット、狂犬病検疫のために収容された動物、残酷なケース、妊娠中または授乳中の動物、軽い病気や怪我をした動物、trap-neuter-release(TNR)またはreturn-to-field(RTF)プログラムのために収容された地域のイヌやネコが含まれる。
・一般家庭で生活している妊娠中、罹患中、怪我をしたペットに特定の生ワクチンを接種することは勧められないが、シェルター環境においてこれらのワクチンによって得られる迅速な防御は、胎児や動物自身へ被害を与えるリスクを上回る。
・要するに、イヌやネコがシェルターに収容される際、安全に生ワクチンを接種できない場合、その動物がシェルターにとどまることは感染のリスクが大きすぎる。
・経済的な理由により、シェルターは引き取られる可能性のあるイヌやネコだけにワクチン接種を行い、安楽死のリスクのあるイヌやネコにはワクチン接種を行わないという誘惑に駆られるかもしれない。
・ワクチン接種を飼育可能な動物に制限することは、感受性の高い動物集団を大量に生み出し、施設内での感染症の発生やアウトブレイクを引き起こし、ワクチンよりも費用のかかる状況をもたらす。

・一般家庭で飼育されている子犬や子猫へのワクチン接種は通常、生後6-8週齢から開始し、少なくとも生後4ヶ月齢までは3-4週間間隔で繰り返される。
・一方、シェルターに入る子犬や子猫へのワクチン接種は生後1ヶ月齢から開始し、移行抗体による干渉をできるだけ早く突破するために、2-3週間ごとに追加接種を行う。
・子猫の最大37%、子犬の一定以下の割合で、4ヶ月齢以降の1回あるいはそれ以上の回数のコアワクチン実施後でさえも、その反応に持続的なMDAの干渉が起こることが示されている。
・そのため、予防原則に基づきシェルターの獣医師は、シェルターの子犬や子猫のワクチン接種を、コアワクチンで5ヶ月齢まで継続することを推奨する。
予防原則はまた、5ヶ月齢以上のシェルター内のイヌに2-3週間の間隔をあけて弱毒生コアワクチンを2回接種することを推奨する根拠でもある。

・B.bronchiseptica±CPiVワクチンは家庭環境で飼育されているイヌにとってはノンコアワクチンであるが、シェルターで飼育されているイヌにとっては、暴露や伝播のリスクが高く、非常に高い罹患率をもたらすため、コアワクチンとなる。
・すべての成犬および3週齢以上の子犬は、収容時にCPiV生ワクチンを含むB.bronchiseptica経鼻生ワクチンを接種すべきである。
・これらのワクチンは3-7日の内に両方の病原体に対する迅速な粘膜免疫応答を誘導し、病原体の排出やシェルターの感染症を顕著に減少させる。
・経鼻ワクチンの投与が適さない場合には、経口B.bronchisepticaワクチンを成犬および7 or 8週齢以降の子犬に投与することができる(どちらのワクチンを選択するかによって異なる)。
・一部の国では、この経口ワクチンにもCPiVが含まれる。
・経口ワクチンは経鼻ワクチンとほぼ同等の効果があり、また細胞抗原抽出物を含む非経口不活化B.bronchisepticaワクチンよりも優れていることが研究で示されている。
・経鼻ワクチンと経口ワクチンは、移行抗体によって不活化されず、13ヶ月のDOIが付与されるため、収容時に1回接種するだけでよい。
・すべてのシェルター内のイヌに対し、収容時にCDV、CAV-2およびCPiVを含む非経口ワクチンとB. bronchisepticaやCPiVの経鼻ワクチンを接種することは、呼吸器疾患の発生を減少させることと関連する。

・FPVを含む非経口生ワクチンは、迅速かつ強固な免疫を誘導するために、シェルターのネコに使用されるべきである。
・一部の国ではFHVとFCVを含む経鼻生ワクチンも入手可能である。
・これらは4-6日以内という速さで防御を誘導するため、シェルター内のネコにとって有利である。

狂犬病ウイルスは、狂犬病流行地域におけるシェルター内のイヌやネコにおいてはコアワクチンである。
・ 動物の滞在期間が短期であるシェルターでは、地域の狂犬病ワクチン接種要件を確実に遵守するため、収容時にワクチン接種を行うことが望ましい。
サンクチュアリで過ごす、またはシェルターに何ヶ月も滞在することが予想されるすべてのイヌやネコは、地域の法律に従って収容時に狂犬病ワクチンを接種すべきである。
・長期型のシェルターやサンクチュアリにおけるイヌやネコの追加接種は地域の法律に従うべきである。

<<シェルター施設におけるイヌとネコのノンコアワクチン>
・ボレリア・バーグドルフェリ(ライム病)ワクチン、レプトスピラワクチン、H3N8/H3N2犬インフルエンザワクチンは、シェルター内のイヌへの使用が制限されているノンコアワクチンである。
・その地域あるいはシェルター内での記録に基づく疾患の暴露リスクが高い場合、製造業者の指示に従って、シェルター内のすべてのイヌ、および新しく収容されるイヌに対して初回ワクチン接種シリーズを開始すべきである。
・短期滞在型のシェルターでは、多くのイヌが初期ワクチン接種シリーズを終了する前にシェルターを去るため、引き取り手にはその後対応する獣医師とフォローアップとしての追加接種を行うよう奨励すべきである。
・暴露の実質的なリスクがある場合、ボレリア、レプトスピラ症、またはCIVワクチンは、サンクチュアリのような終生滞在する長期型シェルターにいるイヌ、または数カ月に及ぶ長期のシェルター滞在が予想されるケースでのワクチン接種プログラムに含めるべきである。

・FeLVワクチンはシェルターのネコにおいてノンコアワクチンである。
・2020年のAAFP Feline Retrovirus Testing and Management Guidelinesでは、FeLVワクチン接種前に全てのネコにFeLV感染有無について検査すべきとされている。 ワクチン接種状態が不明のネコが、後にFeLVに感染していると判明した場合、ワクチンの有効性が疑われ、ワクチンの失敗が疑われるからである。そのため初回接種前に検査をすべきである。
・十分な資金があるシェルターでは、未感染のネコ全頭に検査とワクチン接種を行うことを選択できるかもしれないが、それほど資金がないシェルターの場合、収容されている個々のネコに対しては、ウイルス感染のリスクが低いためFeLV検査とワクチン接種は必須ではない。
・このようなシェルターでは、引き取り手は検査やワクチン接種について獣医師と相談するよう指示されるべきだろう。
・ネコを集団飼育しているシェルターの場合、FeLV検査は集団に収容する際に未感染のネコを特定するために不可欠である。
・集団飼育されているネコへのFeLVワクチン接種は、滞在期間に基づいて行われる。
・このワクチンは長期滞在型のシェルターやサンクチュアリで集団飼育されているネコに推奨されているが、短期滞在型のシェルターで集団飼育されているネコには推奨されていない。
・このようなシェルターからワクチン未接種のネコを引き取る場合、新しい家でのネコの生活様式に基づいて、ワクチンを接種するかどうかを獣医師と相談したほうがよいだろう。

・Bordetella bronchisepticaおよびC. felisワクチンは、細菌感染症が呼吸器感染症の原因としてあまり流行していないため、シェルター内のネコではノンコアワクチンである。
・シェルターでB.bronchiseptica感染が確認され、肺炎に罹患した咳をしているネコがいる場合、B.bronchiseptica経鼻生ワクチンが必要となる。
・そのような状況下では、集団免疫を成立させ病原体の伝播を阻止するために、収容時に1ヶ月齢以上のすべてのネコに経鼻生ワクチンを数ヶ月間投与すべきである。
・同様に、C.felisワクチンはその感染による疾病が確認されているシェルターでは感染制御プログラムの一部となる可能性がある。
・B.bronchisepticaはイヌとネコにおいて種間感染を起こす可能性がある。
・ネコにB. bronchisepticaの疾病があるシェルターでは、その場でイヌも収容している場合、またはスタッフがイヌとネコの両方を扱っている場合、種間感染の可能性を考慮すべきである。

・シェルターやTNRやRTF計画では、予防接種と不妊手術の同時実施はイヌやネコに対し広く行われている。
・予防接種は不妊手術などの処置と別に実施することが理想的ではあるが、麻酔や手術がワクチン接種に対し抗体反応を著しく低下させないということが、いくつかの研究で証明されている。

⑩ネコの予防接種ガイドライン

【ネコの予防接種ガイドライン
<コアワクチンについて>
・世界のすべての地域において、ネコのコアワクチンはFPV、FHV、FCVを防御するものである。
・VGGは初期の3価コアワクチンを6-8週齢に接種し、その後2-4週間毎に追加接種を行い、16週齢あるいはそれ以降までの接種を、そしてそれに続く接種をすべてのネコがワクチン接種に反応できるようMDAが十分に減少する26週齢かそれ以降に行うことを推奨する。
・これらの推奨は、一部の子猫にてMDAの干渉が長く続くというエビデンスに基づいている。
・初期コアワクチン接種の回数は、接種を開始する年齢と、どの接種間隔を選択するかに依存する。
・26週齢またはそれ以降での推奨は、次年の約1歳でのワクチン接種の代わりになるものであり、それを受けたとしても1歳時点での健康診断が不要になるようなものではない。

狂犬病が流行している地域では、法律でネコへの接種が義務付けられていなくとも、ペットと人間の双方のために、すべてのネコに狂犬病ワクチンを接種することをVGGは推奨する。
・認可されているネコ用狂犬病ワクチンのDOIは通常1年または3年である。
・再接種の頻度は、第一に現地の規制、また規制がない場合はデータシートのDOIに基づくべきである。

・世界的に使用されているイヌ用コアワクチン成分(CPV、CDV、CAV)はすべて、適切に使用された場合、強力で長期にわたる防御を提供するが、FCVおよびFHVのコアワクチン成分によって提供される防御は、FPVワクチンによって提供される防御には及ばない。
・FCVワクチンは、複数のFCV株に対してある程度の交差防御免疫を産生する。
・しかし、完全にワクチン接種を受けた成猫でも感染や発病の可能性はある。
・感染を予防できるFHVワクチンは存在しない。
・感染すると、多くの場合ウイルスは神経組織に潜伏するようになり、ストレスがかかると再活性化する可能性がある。
・再活性化したウイルスは、ワクチン接種済みの動物に臨床症状を引き起こす可能性があり、またウイルスが感受性の高い動物に排出されることで、その動物に病気を引き起こす可能性もあります。

・MLVコアワクチンによる接種に反応した猫は、繰り返し接種を行わなくても、FPVに対する強固な免疫を何年も持続する。
・ FCVとFHVに対する免疫は部分的なものでしかなく、預かり施設でのストレスによって弱まる可能性がある。
・VGGは “低リスク”である成猫(単頭飼育、ホテルといったキャッテリーを利用しない室内飼育)の場合にはMLVコアワクチンの接種間隔を3年毎かそれ以上にすることを推奨する。
・ “高リスク”のネコについては、FCVとFHVを予防するためにより頻繁な追加接種(最大でも年1回)が必要となる可能性がある。
・ここには、定期的にホテルなどのキャッテリーを利用する場合や、潜在的に感染リスクのある他のネコと接触したりする場合も含まれる。
・ホテルを利用するネコの場合、FCV/FHVワクチンをホテル利用前1-2週間に接種することができる。
・一部の国では、一般的な3価のFPV/FCV/FHVワクチンと並んで、2価のFCV/FHVワクチンを利用することができる。
・これらの2価ワクチンにより、獣医師はFCV/FHVに対しては年1回、FPVに対しては3年に1回、またはそれ以下の頻度で高リスクのネコにワクチンを接種することができる。
・経鼻MLV (FPV/FHV/FCVまたはFHV/FCV)ワクチンが利用できる国もある。

・追加接種の頻度に関するこれらの推奨は、MLVワクチンに適用される。
・不活化FPVワクチンは通常、MLV FPVワクチンのような長期にわたる防御を提供しない。
・不活化FCV/FHVワクチンは、実験的に部分的な予防効果を長期間持続することが示されている。
・しかし、この研究で用意された環境は非常に安定しており、猫にとって「低ストレス」であった可能性が高い。
・ 典型的なホテル・キャッテリーの状況とは異なっていた。

・このガイドラインの最新版において、VGGはFeLV関連疾患の発生が確認されている地域において、FeLVワクチンをコアワクチンとして指定することを決定した。
・これらの地域では、この指定は若いネコ(1歳未満)と、外に出られる高齢猫、または外に出られる他のネコと同居している高齢猫に適用される。
・世界には、FeLV感染が稀であることが確認済みである地域や、診断されるとしても稀であり輸入猫においてのみFeLV関連疾患が診断される地域がある。
・FeLVおよびFeLV感染症への曝露は、制御プログラムの成功により、現在、世界の多くの地域で著しく減少している。
・改善率が頭打ちになっている可能性もあるため、この事実を自己満足の理由にしてはならない。
・VGGは、個々の猫のライフスタイルと確認可能な暴露リスクに基づいたFeLVワクチンの使用を全面的に支持する。
・FeLV感染が依然として流行する多くの地域において、すべての1歳未満のネコは定期的なワクチン接種によって予防の恩恵を受けるべきである。
・このような場所では、FeLVワクチンは若齢猫、そして屋外に出る機会のある高齢猫においてもコアワクチンとして考慮するべきである。
・咬傷が成猫におけるFeLV感染経路として認識されてきているため、老齢猫を監視なしで屋外に出す場合には防御が必要である。 
・屋外での咬傷リスクのある成猫に対して、どれくらいの頻度でFeLVワクチンを追加接種すべきかについては、さらなる研究が必要である。
・FeLVに対する2年または3年に1度の再接種を支持する投与試験は、咬傷経由で感染するFeLVに対する長期的な防御を直接証明するためにデザインされたものではない。

・FeLV感染が極めて稀である地域を除き、毎年の健康診断では、FeLVワクチン接種の費用、リスク、潜在的な利益を考慮する必要がある。
・FeLV陰性の猫にのみワクチン接種を行うべきである。
アジュバンドの付与されている不活化全粒子ウイルスワクチン、サブユニットワクチン、そしてリコビナントワクチン、ウイルスベクターワクチン(カナリアポックスウイルス)、アジュバンド非添加ワクチン等様々なワクチンが利用可能である。
・これらのワクチンは、進行性のFeLV感染と関連疾患に対する予防効果を持つが、FeLV感染が起因するすべての転帰を予防できるわけではない。

・ワクチン接種歴が不明または不完全である成猫がワクチン接種のために受診することはよくあることである。
・MLV FPVワクチンを1回接種することで、生後26週齢以上の大多数のネコに対し長期にわたる免疫を十分に誘導できる。
・しかし、FPV、FHV、FCVを含むMLVワクチンの製造業者の多くは、2-4週間の間隔で2回接種することを推奨している。
・MLV FHVおよびFCVワクチンはMLV FPVワクチンよりも効力が弱いことから、VGGはこの推奨を支持する。
・不活化コアワクチン(FPV、FHV、FCV、FeLV)を使用する場合、予防のため2回接種が推奨されることは重要である。

<ノンコアワクチンについて>
・ネコ用のノンコアワクチンには、クラミジア・フェリス、ボルデテラ・ブロンキセプティカ、猫免疫不全ウイルス(FIV)を予防するものがある。

クラミジア・フェリスに対するワクチンは、感染や病気に対する不完全な防御を供給する。
・これらのワクチンは、この病原体が過去に病気を引き起こした家庭における多頭飼いのネコに推奨される。
・弱毒生ワクチンとアジュバント添加不活化非経口ワクチンがある。
・これらのワクチンは、8-9週齢の子猫に使用され、2回目の投与が2-4週間後に必要であり、さらに暴露リスクが継続する成猫では年1回の追加接種を行う。

・一部の国で入手可能なネコB.bronchisepticaワクチンは、例えば大規模な集団として飼育されているなど、リスクの高い状況のネコへの使用が検討される。
・弱毒化された経鼻ワクチンで、生後4週間以上の子猫に1回接種し、年1回の追加接種が必要となる。

・これまでに認可されたFIVワクチンは1種類のみである。
・ヨーロッパでは認可されたことがなく、2017年にはアメリカとカナダで販売中止となった。
・このワクチンは現在も日本、オーストラリア、ニュージーランドで入手可能である。
・異種のFIV経口試験に対するこのワクチンの有効性は実験的には示されているが、異なる地域で発見された多くのFIV亜型に対して効果的に交差防御できるかどうかについては長い間議論がされている。
・実験的研究では相反する結果が得られており、ワクチンによっては強力な防御を示すものもあれば、防御を示さないものもある。
・オーストラリアで、優れたデザインの回顧的な実地調査が実施された。
・その研究論文では、ワクチンを接種済みのネコでの防御率は56%であった。
・しかし、この研究は統計的評価が不十分であった。
・この研究の信頼区間は非常に大きく(20-84%)、ワクチン接種済のネコとワクチン未接種ネコでの感染率に統計的な有意差はなかった。
・より最近の野外研究では、ニュージーランドの環境下においてワクチンによる防御が不十分であることが示された。
・ 2つの異なる環境において、これら研究はいずれもこのワクチンの有効性または有効性の欠如について説得力のある証拠を提供するものではなかった。
・さらなる研究が必要である。

・その間に、VGGは唯一市販されているFIVワクチンを "ノンコア "と分類し続けることを決定した。
・FIV感染からネコを守る最も効果的な方法は、FIV感染ネコに咬まれる危険性のある、監視のない屋外への出入りを制限することである。
・しかし、飼い主の中には、ネコを屋内や保護された屋外の囲いの中に入れて保護することに納得できない人もいる。

・最近まで、このFIVワクチンの使用はFIV感染の診断を複雑にしていた。
・ワクチン接種は抗体の産生につながり、その抗体は、存在するかどうかがFIV感染の診断に用いられるものであった。
・幸いにも、ワクチン接種後すぐに検査を行わない限り、FIV感染猫と非感染猫を判別できる抗体検出キットが市販され、実用化されている。
・FIV感染診断用のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査も信頼性が高まり、より広く利用されるようになった。

・FIVワクチンは不活化アジュバント製剤で、生後8週齢から子猫に接種され、さらに2-3週間の間隔をあけて2回追加接種し、その後の追加接種は12ヵ月後となる。
・曝露のリスクが継続するネコには、その後も年1回の追加接種が推奨される。
・ワクチンによる防御が不完全である可能性が高いため、年1回の再検査が必要である。
・ 感染していない猫にのみ接種する。

・VGGは、国によってはコアワクチンとノンコアワクチンが組み合わされた多成分製剤しかネコに使用できないことを把握しており、可能な限り全種類のワクチンを使用できるようにするか、少なくともノンコアワクチンの使用が正当化されない場合、コアワクチンだけの混合ワクチンを使用できるようにすることを製造業者に奨励する。

・免疫不全のネコへのワクチン接種は、優れた総説にて近年その推奨が示されている。

<非推奨ワクチンについて>
・ネコへの猫伝染性腹膜炎FIP)ワクチンは推奨されていない。
・このFIPワクチンが臨床的に適切な防御をもたらすというエビデンスは不十分である。
・ワクチン接種時に猫コロナウイルス抗体が陰性である確認がとれているネコにおいてのみ、ある程度の防御を獲得する可能性はある。
・このワクチンは生後16週齢からの投与と表示されているが、多くの子猫はそれ以前にコロナウイルスに感染する。
・さらに、このワクチンにはFIPウイルスの血清型II株が含まれており、この株はアメリカやヨーロッパで優勢である血清型I株との交差反応性防御を誘導しない。

ジアルジアやMicrosporum canisに対する予防を目的としたネコ用ワクチン(世界の一部で入手可能)も、有益であるという科学的根拠が不十分であるため推奨されていない。

⑨ 【イヌの予防接種ガイドライン】

【イヌの予防接種ガイドライン
<コアワクチンについて>
・シェルターで生活していないイヌのコアワクチンについての要約情報がTable1にて提供される。異なる種類(MLV、不活化、リコビナント等)のワクチンについての情報は本ガイドラインの前セクションにて記載されている。
※Table1の訳は要約なので割愛いたします。

・世界中で使用されるイヌのコアワクチンはCDV、CAV、CPVが引き起こす疾患を防御する。
・加えて、特定の地域で働く獣医師は、狂犬病レプトスピラ症を予防するワクチンをコアワクチンであると指定する。
狂犬病が流行している地域では、法律で義務付けられていなくとも、ペットと人間の双方を守るために、すべてのイヌとネコにワクチンを接種すべきである。
・イヌの集団予防接種により、狂犬病が大幅に減少あるいは排除されるケースが証明されている。
レプトスピラ症は別種の生命を脅かす人獣共通感染症であり、世界中に広く分布する。
レプトスピラ症が流行する国や地域において、血清型が既知であり対応するワクチンが利用可能であれば、すべてのイヌにレプトスピラ症を予防するワクチンを接種することを強く推奨する。また、その地域ではこれらのワクチンをコアワクチンとみなすべきである。

・VGGは、子犬へのCDV、CAV、CPVに対する初回ワクチン接種を6-8週齢から開始し、16週齢またはそれ以降まで2-4週間毎に実施することを推奨する。
・これらワクチンの接種される頻度が高まるほど、子犬にとっての“感受性の窓”の期間が狭く(短く)なる。
・2週間毎を超えてのワクチン接種は推奨されていない。
・そのため、これら初期シリーズのコアワクチン接種回数や接種開始時期、そして接種間隔はやや異なることがある。
・初期ワクチン接種における最も重要なことは、16週齢またはそれ以降に1回でも接種をすることである。
・移行抗体は、ほとんどの子犬でその年齢までにかなり減少していることが予想されるため、それ以前でなければ、ほぼすべての子犬がワクチン接種に反応することができるはずである。

・子犬における最終接種が16週齢またはそれより僅かに遅れた場合であっても、少数の割合でワクチン接種に十分に反応しない子犬がいるかもしれない。その理由としてMDAの存在が挙げられる。
・この理由から、VGGは血清学的検査を子犬の最終接種から最低でも4週間経過した時点(本ガイドラインに合わせると20週齢またはそれ以降)で実施するか、あるいはその代わりに、26週齢時点またはそれ以降に追加接種することを推奨する。
・この提案は、2016年のガイドラインにて初めて触れられたもので、12または16カ月齢という早期に“最初の1年ごとの追加接種”を推奨していたことにとって代わる内容である。
・生後52週齢以降まで待つよりも、生後26週齢以降でワクチン接種を行う方が、コアワクチンの接種回数は増えないが、まだ能動免疫が得られていない少数の子犬の感受性期間を大幅に短縮することができる。
・VGGの以前の推奨(2016年)は、このワクチン接種を26週齢-52週齢の間で行うことであった。
ガイドラインの最新版では、このワクチン接種を生後26週齢またはその直後に行うことを推奨している。
・生後20週齢以降の血清学的検査でCPV、CDVおよびCAVに対する防御が確認された子犬は、26週齢以降のワクチン接種は必要ない。
・この早期の追加接種の推奨は、次年の約1歳での健康診断や必要な場合の狂犬病ワクチンやノンコアワクチンを実施しなくて済むようになるものではない。
・当然なことながら、多くの獣医師は、面倒を見ているイヌが、成熟な骨格や行動に達した際に再検査を希望するものである。

・認可されているワクチンの中には、子犬のワクチン接種シリーズを10-12週で終了することをデータシートで推奨しているものもある。
・小規模の実験的研究はこの推奨を支持している。
・しかしながら、他の実験的研究や実地調査では異なる結果が得られている。そして、いくつかの支持する実験的エビデンスは、いわゆる“ペン効果”により破棄されている。
・“ペン効果”とは実験用の子犬が集団で飼育され、粘膜から排出されたワクチンウイルスを各グループ内で共有可能である状況を指す。
・これは、人為的に仔犬が免疫を獲得する機会を大幅に増やすことになり、ワクチン接種によって得られる利益を潜在的に過大評価するためのものである。
・したがって、VGGは変わらず16週齢以降の接種、あるいはその後の血清学的検査または26週齢以降の追加接種を推奨する。

・“早期終了”プロトコルの理論的根拠のひとつは、子犬の早期社会化を可能にすることである。
・VGGは、犬の健全な行動発達と将来の幸福に不可欠なものとして、早期社会化を強く支持している。
・WSAVAの予防接種ガイドラインに従いながら、早期社会化を実現することは可能である。
・ある研究では、初期ワクチン接種シリーズの途中で子犬が早期社会化クラスに参加することで、CPV関連疾患を発症するリスクは低いことが明らかにされている。
・ CDVやCAVも同様なことが当てはまるだろう。

・MLVコアワクチンによる予防接種に最適な反応を示したイヌは、繰り返しのワクチンを要すことなく、何年も強固な免疫を維持できる。
・ひとたび子犬が能動免疫を手に入れた場合、その後の再接種は3年に1回必要となる。
・コアワクチンを生後26週以降で接種する場合、コアワクチン接種と1年ごとの健康診断を同期にするために、また飼い主にとって便利になるように、次の接種を(3.5歳まで待つのではなく)3歳で行うほうがいいかもしれない。

・犬用不活化コアワクチンは、MLVワクチンのように長期にわたる防御を提供しないことは強調すべきである。
・組換え型犬用コアワクチンは、MLVワクチンと同様の防御を提供する。
・詳細な比較は本ガイドラインの範囲外である。

・ワクチン接種歴が不明または不完全である成犬がワクチン接種のために来院することはよくある。
・MLVコアワクチンでは26週齢以上のイヌに1回接種するのみで免疫を誘導するのに十分であり、長期にわたる防御を与えられる。
・リスクの高い状況(アウトブレイクなど)であれば、2-4週間後に2回目の接種を検討するのが賢明であろう。

狂犬病流行地域では、狂犬病ワクチンの接種も必要である。
狂犬病ワクチンの大部分は不活化ワクチンであるが、免疫原性は極めて高い。
・他の多くの不活化ワクチンとは異なり、1回の接種で免疫を獲得することができる。
・世界の一部の地域では、生後12週齢で狂犬病ワクチンの初回接種を行い、1年後に2回目の接種が推奨されているが、国によっては現地で製造されたワクチンの推奨接種スケジュールがこれと異なる場合があるため、その地のルールに従うべきである。
狂犬病ワクチンの追加接種の間隔は、法律で義務付けられていることが多い。
狂犬病ワクチンの認可された免疫持続期間は通常1年または3年である。
・再接種の間隔は、第一に現地の規制、また規制がない場合はデータシートのDOIの記述に基づくべきである。
・法的要件がワクチンのデータシートと食い違う国では、法律に従わなければならない。
・ローカルな地域で製造されたDOIが1年である狂犬病ワクチンを安全でかつその効果が3年間使用できると仮定するべきではない。
・獣医師は法律に留意すべきであるが、最低3年間の免疫が得られることが明らかにされている製品を入手可能な場合には、国内の獣医師会は、地域の規制を現在の科学的証拠に合わせ変更するよう働きかける検討をしてもよいであろう。

・犬レプトスピラ症を予防するワクチンは、住んでいる地域や旅行する地域で疾患が流行しており、血清群が既知であり、適切なワクチンが市販されている場合、本ガイドラインではコアとみなされるようになった。
・これが意味するものとして、本ガイドラインによれば、犬レプトスピラ症を予防するワクチンは、多くの地域ではコアと指定されるものであるが、世界のすべての地域で指定されるものではないということである。
・南オーストラリアなど、深く調査された世界の少数の地域では、犬レプトスピラ症が発生しているというエビデンスはほとんどないか、全くない。
・悲しいことに、世界の多くの地域では、犬をレプトスピラ症から守るために、どの血清群を現地で使用するワクチンに含める必要があるかは未確定である。
・どのワクチンを接種すべきかが不明確な場合、ワクチンをコアに指定することはできない。
・今のところ、異なる血清群間において、ある程度の交差防御が起きる可能性を示唆する興味深いパラダイムを覆すような研究がフランスにおいてあるものの、この状況は変わっていない。
・既知の数多くある病原性変異体から引き起こされる犬レプトスピラ症を防ぐことのできる可能性のある“汎防御型”ワクチンが商業開発されるのであれば、それは切に待たれるものであり、そのようなワクチンの開発が成功されれば、世界の非常に多くの地域にてレプトスピラワクチンをコアとみなすことができるだろう。

・世界的には、現在、犬レプトスピラ症からイヌを守るために1価、2価、3価、4価のワクチンが存在する。
・これらには、Icterohaemorrhagiae, Canicola, Grippotyphosa, Pomona and Australisといった血清群に属する様々な血清型が含まれている。
・4価ワクチンはより広範な防御を提供する。
・一般的に、これらのワクチンは強力だが一過性の血清転換を引き起こす。
・免疫(感染性試験を防御するもの)は血清陽性期間より長い(最大15カ月におよぶ)ことが分かっている。
レプトスピラ症を予防する不活化ワクチンは、免疫成立のため2回接種する必要がある。

<ノンコアワクチンについて>
・イヌのノンコアワクチンに関する要約はTable1にて提供される。

・最も広く使用されるイヌのノンコアワクチンはボルデテラ・ブロンキセプチカとパラインフルエンザウイルス(CPiV)に対するものである。
・他のノンコアワクチンは,ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)、犬インフルエンザウイルス(CIV)、リーシュマニア・インファンタム(Leishmania infantum)に対するものがあり、使用できる地域がさらに限定される。
・犬ヘルペスウイルス-1型に対するサブユニットワクチンもあり、特に妊娠中の雌犬に使用される。
・このワクチンは、血清陰性の雌犬において母体血清中の中和抗体の増加を誘導することが示されている。
・この抗体は受動的に初乳へと移行され、感染症が致命的となる3週齢未満の子犬を防御することが明らかとなっている。
・生後間もない哺乳不良の子犬では、十分な防御は見込まれないだろう。

・ノンコアワクチンは一般的に信頼できる防御のために1年ごとの接種が必要となる。
・したがって、本ガイドラインによると、成犬では1年毎のワクチン接種となる可能性があり、その接種されるワクチン中の種類は年ごとに異なるかもしれない。
・CPV、CDV、CAVのように長期間の防御を可能とするワクチン、これらは他種ワクチンと比較し少ない回数の接種にすることができる。
・多くの犬では、CPV、CDV、CAVを予防するワクチンは多くとも3年に1回程度の頻度で接種され、その他の必要なワクチンは毎年接種される。
・ノンコアワクチンとレプチスピラ症のワクチンについて、予防が “失効”した場合(すなわち、以前は適切に予防接種を受けていたにもかかわらず、最後にそのワクチンを接種してから長い間隔が空いてしまった場合)、予防措置として “再度開始”し、2-4週間の間隔をあけて2回接種することが推奨される。

・呼吸器の病原体に対するノンコアワクチンは感染を予防することはできないが、疾患の重症度を軽減する可能性がある。
・CPiV、B. bronchisepticaおよび犬アデノウイルス2型(CAV-2)を防御するワクチンは、これら3つの抗原の異なる組み合わせで利用可能である。その種類として、以下のものがある。※この種類については割愛します。
・CPiVやB. bronchisepticaのワクチンを非経口的に注射した場合、粘膜ワクチンとは異なる防御レベルを提供する可能性があり、経鼻投与の方が、経口投与よりも優れた臨床結果であったことを表すいくつかのエビデンスが存在する。
・一過性の咳、くしゃみ、眼や鼻からの分泌物は、経鼻または経口ワクチン接種後のイヌにごく一部で起こる可能性がある。

・このセクションにおけるインフルエンザウイルス、リーシュマニア症、ボレリアに関する内容は割愛いたします。

<非推奨ワクチン>
・一部の国では利用可能であるが、イヌでの使用が推奨されていないワクチンの要約はTable1にて提供される。

・イヌの腸コロナウイルス(CCoV)に対するワクチンやジアルジアに対するワクチンは、推奨されていない。
・CCoVが成犬の腸疾患につながる主要な病原体であるという証拠は弱く、子犬の感染に伴う下痢は一般的に軽度であり、感染は通常若齢の子犬に起こる。
・従って、6-12週齢での予防接種は多くの感染を予防するには遅すぎてしまう。
・さらに、CCoVに対する防御は腸内の分泌型IgAの存在に依存しており、非経口的にワクチン接種を受けたイヌの腸では防御に関わるIgA抗体反応は発現しないことがわかっている。
・現在利用可能なワクチンが、時折出現するウイルスの変異型病原体(パントロピック株)を防げるという証拠はない。

⑧ 【イヌネコの臨床に関するワクチン学における現在の話題と新たな話題】

【イヌネコの臨床に関するワクチン学における現在の話題と新たな話題】
・本ガイドラインの2016年版で議論された現代の問題の多くは、その後多くの新たなトピックや問題が浮上している中でも、未だに関心事であり続けている。
・2016年以降、一部の国においてワクチンの恩恵を受けられるペットの割合が低いのではないかという懸念が高まっている。
・ワクチン接種を受けたペットの割合が低い場合、“集団免疫”に悪影響を与えてしまう。
・伴侶動物の獣医師は、集団免疫の概念を理解し、行動する必要がある。
・少数のペットに頻回に再接種を行ったとしても、集団免疫にはほとんど益をもたらさない。
・逆にいえば、その集団の中においてワクチン接種を受けたペットの割合を増やすことは、たとえそのペットが1回ずつのコアワクチンしか接種してなかったとしても、はるかに多く益をもたらすことになる。

・過剰で正しいとは言えないような “ワクチン負荷”は関心事としてあり続け、確かに一部の国ではその状況が悪化している。
・コア成分とノンコア成分が混合される多成分のワクチンは今も一般的である。
・少なくとも1つの国においては、本来好ましいはずの単価ワクチンが拡大ではなく消失してしまっている。

・コンパニオンアニマルの診療において “ワンヘルス”という概念が今ほど適切であったことは無いだろう。
・COVID-19パンデミックの間、ヒトの苦しみや伴侶であるイヌやネコの苦しみは織り交ぜられてきた。
パンデミックによって、数え切れないほどの人間の外科手術や医療処置が遅れたのと同様に、ペットの飼い主が必要時に獣医療、特にワクチン接種を受けられなくなっていた。
・ありがたいことに、パンデミックが始まって以来、多くの国でこの状況は改善されている。
・COVID-19がOne Healthに与える影響は他にも数多くある。
パンデミックへの備えに対する世界的な注目の高まりは、“ワンヘルス” 構想にとって好機である。なぜなら、ヒトに感染する可能性のある病原体の多くは、動物に感染源を持つか、動物とその病原体をともにするからである。
・さらに、ヒトの病原体に使用される新しいワクチン・プラットフォーム技術が、動物用ワクチン開発を飛躍的に促進させる可能性もある。

・“ワクチン接種へのためらい”もまた、現代におけるきわめて重要な問題である。
・ワクチン接種へのためらいが悪化するという懸念は、獣医学と医学の両団体のメンバーによって表明されている。
・ワクチンまたは予防接種へのためらいは、“ワクチン接種サービスが利用可能であるにもかかわらず、それに対する受諾または拒否が遅れること”と表現されている。
・ワクチンへのためらいは、世界保健機関(WHO)をはじめとする世界中の公衆衛生機関にとって、甚大なものであり、関心が高まっている。
・実際、2019年にはワクチン接種のためらいが世界の人々の健康に対する脅威トップ10の1つに挙げられている。
・“ワクチン接種のためらい”という言葉が初めてWeb of Science Core Collectionに登場したのは2010年のことである。
・それ以来、このフレーズの使用は大幅に増加し、2020年だけでもこのトピックに関する350以上の論文が発表された。
・上記の説明では、伴侶動物の小動物臨床に関わる人々を十分に包括できていない。
・というのも、ペットにワクチンを接種しないと決めた人々の多くが、獣医師に相談することなしにそう決断しているからである。
・彼らは受け入れを遅らせるわけでも、拒否するわけでもなく、単に議論を避けるだけである。

・伴侶動物の小動物診療におけるワクチン接種のためらいに関するデータは乏しいが、多くの国の2500人以上の獣医師が非公式の調査に回答し、その結果、多くの獣医師がワクチン接種のためらいを増大する問題として認識していることが示された。
・これを裏付けるように、2011-2022年にかけて英国で収集された伴侶動物福祉に関するデータでは、ワクチン接種済みと飼い主から報告されたペットの割合が、(2017年に気付き始めてから)不安を抱かせるほど減少していることが明らかになり始めた。
・PDSAの2019年版PAWレポートでは、子犬に初回シリーズのワクチン接種を受けさせたと回答した飼い主は72%に過ぎなかった(2016年における約88%から減少)。
・子猫については、2016年の82%と比較し61%まで数値が下がっていた。
・定期的な追加接種を受けている成犬や成猫の割合はさらに低かった。
・2020-2022年にかけて、その状況は安定または改善し、ワクチンを接種済のペットの割合がわずかに増加したように思えるが、COVID-19パンデミックの交絡効果により、最近報告されたこれらのデータを解釈することは困難である。

・2019年のPAWレポートでは、ワクチン接種を受けさせない理由のトップは “費用が高すぎる”だった(全飼い主の17%)。
・成猫の飼い主にとっては、動物病院に連れて行くことで猫にストレスを与えたくないことが、追加接種に向かう上で強力な抑制要因であり、費用よりもわずかに強力であった(本トピックが22%の飼い主に影響を与えたのに対し、費用による影響は21%)。
・したがって、Fear Free Pets®や他の同様な組織は、ワクチン接種のコンプライアンスを向上させる上で重要な役割を果たすことが可能であると考えられる。
・興味深いことに、ワクチンの安全性に対する懸念は、2019年のPAWレポートでは、ペットにワクチンを接種しない理由として言及されていなかった。

・約100万頭の英国におけるイヌを対象とした最近(2022)の研究では、12カ月の研究期間中レプトスピラワクチンを少なくとも1回接種したのイヌはわずか49%であった。
・この研究では、8歳以上のイヌは1歳未満のイヌよりもレプトスピラワクチン接種の恩恵を受けておらず、その確率は12.5倍低かった。

・別の研究(2022)では、アメリカ全土の動物病院におけるイヌとネコのノンコアワクチン接種率のばらつきを調査した。
・これらのペットはすべてコアワクチンについては接種済みであった。
・この研究において、全国的に、動物病院におけるイヌのワクチン接種率中央値はレプトスピラ症で70.5%、ボルデテラ・ブロンキセプチカで68.7%であった。
・ネコでは、FeLVについて、病院でのワクチン接種率中央値は成猫では低く(34.6%)、子猫と1歳齢の猫ではわずかに高い(36.8%)結果であった。

・獣医師やその団体が伴侶動物のワクチン接種率を向上させるために活動する余地が、裕福な国を含めても、多く残されている現状は明らかである。

・過剰な “ワクチン負荷”について、例をあげるとオーストラリアでは一価のFeLVワクチンが既に購入できないことは思わしくない事案である。
・最後にこのガイドラインが発表されて以来、その状況は悪化してしまっている。
・現在残された選択肢としては、FeLVを含む5価不活化ワクチンを接種することである。
・以前はいくつかの単価ワクチンの選択肢が存在した。
・商業的な要請により比較的小さな市場にこのような状況がもたらされたのだろう。

⑦ 【ワクチン接種に関する意思決定に役立つ犬と猫の血清学的検査】

【ワクチン接種に関する意思決定に役立つ犬と猫の血清学的検査】
・コンパニオンアニマルの診療における進歩として、イヌではCDV、CPV、CAV、ネコではFPVに対する抗体を検出できる診断検査キットが利用可能となっている。
・検査キットの中には、動物病院やシェルターにて使用が認められ、その準備や使用方法も簡単なものがある。
・20-30分以内という速さで陽性or陰性の結果が得られる。
・これら検査キットの中には、血清学的検査の “ゴールド・スタンダード” であり続ける従来の検査室の方法(ウイルス中和試験や血球凝集阻害試験など)を補完するに有用なものもある。

・成犬ではCDV、CPV、CAV、成猫ではFPVについて、血清抗体の存在は防御可能な体液性免疫の証拠となり、疾病を防御できる可能性も非常に高い。
・ペットの中には、これらの抗体が3年以上持続する場合もある。
・ワクチン接種を受けたイヌでは、CDV、CAV、CPVに対する免疫防御は数年に及び維持される可能性がある。
・これはネコのFPVにも当てはまる。
・逆にいえば、FHVやFCVにおいて、保護猫を対象とした先行研究では支持的な結果が得られているものの、現在のところ、どちらのウイルスについてもその抗体の有無は免疫防御の信頼できる予測因子とは考えられていない。
・FHVやFCVを防御するワクチンは、検査結果を陰性から陽性に変化させることは可能だが、疾病に対しては部分的な防御にしかならず、感染の完全な防御やキャリア状態の発症を効果的に予防することはできない。
・ネコでは、抗FPV抗体の検査は、抗FHV抗体や抗FCV抗体に対する検査よりも、より信頼できる防御の指標と考えられている。

・抗体が存在した場合に反して、検出可能な抗体が存在しないことは、感染や疾患に対する感受性を確実に予測するものではない。
・ただ、この抗体検査では細胞性免疫や自然免疫を評価していない。そのため検出可能な血清抗体がない場合でも、多くの動物は免疫学的記憶によって強固に防御されていると考えられる。
・これを裏付けるように、過去にワクチン接種を受けた血清陰性のペットでは、追加接種直後、迅速に強力な抗体反応が証明されており、投与から強固に防御されている可能性が高いことを示している。
・これら知見にもかかわらず、一般に抗体がないことが追加接種の臨床適応とされてきた。
・これは予防の原則に基づくもので、免疫記憶の証明(再接種と再検査による回顧的な証明以外)は、ほとんどの臨床現場では容易に達成できないからである。

・飼い主は、子犬や子猫が初期のワクチン接種を終えた後、能動免疫が付与されているかを確認したいと望む可能性がある。
・その場合、生後20週以降、早くとも最終ワクチン接種から4週間経過してから採取した血清サンプルであれば、検査に用いることができる。
・血清が陰性であることが判明した動物(おそらくごく一部)では、ワクチンを再接種し、数週間後に再検査する必要がある。
・その動物が再検査時に再度陰性と判定された場合、陰性と判定された病原体に対する防御免疫を獲得することができない可能性のあるノンレスポンダーと暫定的にみなすべきである。
・このステージにおいてゴールドスタンダードの血清学的検査を実施すると、早めにワクチンの防御ができていなかったと確認することができる、あるいはノンレスポンダーに典型的な低いor検出不能な抗体価を明らかにすることができる(図2参照)。

以下、Fig②の文章(画像内の訳は今回は割愛いたします)
・生後16週齢以上の子犬や子猫における最終接種4週間後に得られた血清学的検査結果を解釈し、対応するために推奨されるアプローチを示すアルゴリズム
・理想的には、血清学的検査、特に抗 CDV 抗体の検査は、臨床現場即時検査ではなく、標準的な研究室で行うべきである。

・実臨床にて血清学的検査キットは、(例えば)3年ごとの定期的な再接種に代わる便利な方法を飼い主に提供したいと考える獣医師には支持されている。
・しかしながら血清学的検査キットは、基準となるゴールドスタンダード検査と比較した場合、感度、特異度、陽性および陰性的中率(PPVやNPV)、全体的な精度(OA)にばらつきがあることが示されている。

・実臨床における血清学的検査キットを信頼するには、その特異度が高くなければならない。
偽陽性という結果は、動物が抗体を持ち、防御されていることを示すだろう。
・ しかし実際には、この結果は偽陽性であるため、現在のガイドラインではその動物が再接種を受けるべきであるとされている。
・最近、ドイツにおいて、いくつかの異なる種類の診断用検査キットがゴールドスタンダード検査と比較された。
・それらキットの使いやすさ、ゴールドスタンダード検査に対する性能はさまざまであった。
・試験に用いたキットの中において、イヌ血清中のCPV-2抗体を検出するキットは非常に良好な結果を示したが、CDV抗体とCAV抗体を検出するキットではそこまで良好な結果が示されなかった。
・CDV抗体検出のための4つの異なるキットをゴールドスタンダード検査と比較した。
・ゴールドスタンダードに対して、急性疾患のイヌや慢性疾患の健康そうなイヌの検査に使用した場合、これらのキットの信頼性は低かった。
・この論文では、CDV検出用のゴールドスタンダードであるウイルス中和試験を急性疾患や慢性疾患のイヌに使用した場合の信頼性についても同様に疑問を呈していた。
・全体として、これらの検査キットを用いたCDV用の血清学的検査の有用性は、急性疾患のイヌや慢性疾患のイヌの場合のみであるが、この研究では支持されなかった。
・抗CAV抗体を検出する1つの検査キットでは、特異度が低かった。
・ この重要な分野の進歩を後押しするために、さらなる研究が必要である。

・ワクチン接種に関する意思決定の補助として血清学的検査の有用性と限界を理解することは大変難しいことである。
・獣医師は、血清学的検査や “力価”の検査をそこまでしたいと思っていないのであれば、無理にその検査を始めなければならないと義務を感じるべきではない。
・血清学的検査に関するいくつかの FAQsが本ガイドラインの最新版に含まれている。
・これらは、このトピックをさらに探求することに興味がある獣医師のためのものである。

⑥ 【移行抗体の免疫への影響】

【移行抗体の免疫への影響】
・移行抗体(MDA)は新生仔犬や仔猫が生後数時間に初乳を摂取して獲得することがほとんどである。
MDAは受動免疫を提供する。
MDAは生後数週間の子犬や子猫を防御するために重要ではあるが、MDAはまたほとんどのワクチンに対して自らに必要な能動免疫を起こす能力をも阻害してしまう。
・血清MDAは幼若動物の免疫グロブリンG(IgG)産生を阻害し、ワクチン抗原が能動免疫の応答を刺激するのを妨げる。
・ほとんどの子犬や子猫において、生後約8-12週齢までにワクチン接種によって能動免疫が惹起可能となるレベルにまで移行抗体の量は減少する。
・移行抗体の量が少ない子犬は、より早い年齢で脆弱である(ワクチン接種に反応できる)可能性があるが、一方で、生後12週齢以上までワクチン接種に反応できないほど高レベルの移行抗体を保有する子犬もいる。
MDAが完全な免疫防御をもたらせるほど十分なレベルには満たないが、ワクチン接種による能動免疫の成立を防げるほど十分なレベルである期間を、子犬や子猫の“感受性の窓(window of susceptibility)”と呼ぶ。
・この “感受性の窓”の間、    子犬や子猫は従来のワクチンでは免疫を得られず、“野外”の病原体や強毒な病原体に接触すると病気にかかりやすい。
・個々の子犬や子猫に移行するMDAの量は同腹間や同腹内でも異なるため、血清学的検査を行わない限り、この“窓”がいつ開いて閉じるか(すなわち、その期間がいつ始まり終わるか)を予測することは不可能である。
MDAの十分な減少がいつ起こるかを血液検査なしに予測することは不可能であるため、初回のコアワクチン接種シリーズでは通常、複数回の連続投与を実施する。
・この場合の複数回の投与はブースター接種ではない。
・この連続投与はMDAが十分に低下した後、できる限り早期に能動免疫を惹起することを目的として行われる(図1参照)。
MDAは、生ワクチンと不活化ワクチンの両方に対する免疫応答を阻害する可能性がある。
・不活化ワクチンの初回接種時に、能動免疫の応答を阻止するのに十分なMDAが存在する場合、免疫反応は立ち上がらないだろう。
・その時期に重なってしまう場合、不活化ワクチンの2回目の投与でさえも、その動物を免疫することができなくなってしまう。
・逆に、MDAが十分に低下した後にMLVワクチンを1回接種すれば、通常は十分な免疫を獲得できる。

以下、Fig①の文章
図1. 母体由来抗体(MDA)が、初回ワクチン接種で子犬や子猫に免疫をつけることをどのように妨げるのか。
・このグラフは、縦軸に子犬の血清抗体(Ab)濃度または “力価”、横軸に週齢を示している。
・この抗体はイヌパルボウイルスに対するものであるが、子犬/子猫に関わらず、また様々な病原体に対して同じ原理が当てはまる。
・生後まもなく、この子犬は初乳を介して母親からかなりの量の抗パルボウイルス抗体を手に入れた。
・これがいわゆる “母親由来抗体”あるいは移行抗体(赤線)である。
MDAは指数関数的に減少し、半減期は約9-10日である。
・注射のアイコンは複数回の接種を表しており、その初回接種は6週齢時点で行われた。
・この初回のワクチン接種では、MDAがワクチンを中和したため(阻害したため)子犬に免疫がつかなかった。
・同じことが次の2回目のワクチン接種にも当てはまる。
・生後8週齢にて、この子犬はパルボウイルス性腸炎にかかりやすくなった。
・これはMDA濃度がイヌパルボウイルスの中等度レベルでの投与から防御するのに必要な量を下回ったからである。
・しかし、MDAはその年齢での免疫を付与できなかった、これはMDAのレベルがまだワクチンを妨害し、能動免疫の付与を妨げるのに十分な量が存在したからである。
・約13.5週齢になると、この子犬のMDAレベルは十分に低下し、予防接種が可能となった。
・生後16週で追加接種をされた子犬では、すぐに能動免疫が惹起された(青い曲線)。
・点線と点線の間のピンクの斜線の長方形は、この子犬の “感受性の窓(期間)”を表している。
・これは、この子犬がパルボウイルス病にかかりやすい期間を示している。
・幼若な子犬のMDAを定期的に測定することは推奨されない。
・子犬によっては、この表の子犬よりも与えられる移行抗体の量が多い場合や非常に少ない場合も起こりうる。
・そのため、その “感受性の窓”をどの子犬や子猫においても短い期間にするため、実践的な方法として2-4週毎のワクチン接種が実施される。