⑧ 【イヌネコの臨床に関するワクチン学における現在の話題と新たな話題】

【イヌネコの臨床に関するワクチン学における現在の話題と新たな話題】
・本ガイドラインの2016年版で議論された現代の問題の多くは、その後多くの新たなトピックや問題が浮上している中でも、未だに関心事であり続けている。
・2016年以降、一部の国においてワクチンの恩恵を受けられるペットの割合が低いのではないかという懸念が高まっている。
・ワクチン接種を受けたペットの割合が低い場合、“集団免疫”に悪影響を与えてしまう。
・伴侶動物の獣医師は、集団免疫の概念を理解し、行動する必要がある。
・少数のペットに頻回に再接種を行ったとしても、集団免疫にはほとんど益をもたらさない。
・逆にいえば、その集団の中においてワクチン接種を受けたペットの割合を増やすことは、たとえそのペットが1回ずつのコアワクチンしか接種してなかったとしても、はるかに多く益をもたらすことになる。

・過剰で正しいとは言えないような “ワクチン負荷”は関心事としてあり続け、確かに一部の国ではその状況が悪化している。
・コア成分とノンコア成分が混合される多成分のワクチンは今も一般的である。
・少なくとも1つの国においては、本来好ましいはずの単価ワクチンが拡大ではなく消失してしまっている。

・コンパニオンアニマルの診療において “ワンヘルス”という概念が今ほど適切であったことは無いだろう。
・COVID-19パンデミックの間、ヒトの苦しみや伴侶であるイヌやネコの苦しみは織り交ぜられてきた。
パンデミックによって、数え切れないほどの人間の外科手術や医療処置が遅れたのと同様に、ペットの飼い主が必要時に獣医療、特にワクチン接種を受けられなくなっていた。
・ありがたいことに、パンデミックが始まって以来、多くの国でこの状況は改善されている。
・COVID-19がOne Healthに与える影響は他にも数多くある。
パンデミックへの備えに対する世界的な注目の高まりは、“ワンヘルス” 構想にとって好機である。なぜなら、ヒトに感染する可能性のある病原体の多くは、動物に感染源を持つか、動物とその病原体をともにするからである。
・さらに、ヒトの病原体に使用される新しいワクチン・プラットフォーム技術が、動物用ワクチン開発を飛躍的に促進させる可能性もある。

・“ワクチン接種へのためらい”もまた、現代におけるきわめて重要な問題である。
・ワクチン接種へのためらいが悪化するという懸念は、獣医学と医学の両団体のメンバーによって表明されている。
・ワクチンまたは予防接種へのためらいは、“ワクチン接種サービスが利用可能であるにもかかわらず、それに対する受諾または拒否が遅れること”と表現されている。
・ワクチンへのためらいは、世界保健機関(WHO)をはじめとする世界中の公衆衛生機関にとって、甚大なものであり、関心が高まっている。
・実際、2019年にはワクチン接種のためらいが世界の人々の健康に対する脅威トップ10の1つに挙げられている。
・“ワクチン接種のためらい”という言葉が初めてWeb of Science Core Collectionに登場したのは2010年のことである。
・それ以来、このフレーズの使用は大幅に増加し、2020年だけでもこのトピックに関する350以上の論文が発表された。
・上記の説明では、伴侶動物の小動物臨床に関わる人々を十分に包括できていない。
・というのも、ペットにワクチンを接種しないと決めた人々の多くが、獣医師に相談することなしにそう決断しているからである。
・彼らは受け入れを遅らせるわけでも、拒否するわけでもなく、単に議論を避けるだけである。

・伴侶動物の小動物診療におけるワクチン接種のためらいに関するデータは乏しいが、多くの国の2500人以上の獣医師が非公式の調査に回答し、その結果、多くの獣医師がワクチン接種のためらいを増大する問題として認識していることが示された。
・これを裏付けるように、2011-2022年にかけて英国で収集された伴侶動物福祉に関するデータでは、ワクチン接種済みと飼い主から報告されたペットの割合が、(2017年に気付き始めてから)不安を抱かせるほど減少していることが明らかになり始めた。
・PDSAの2019年版PAWレポートでは、子犬に初回シリーズのワクチン接種を受けさせたと回答した飼い主は72%に過ぎなかった(2016年における約88%から減少)。
・子猫については、2016年の82%と比較し61%まで数値が下がっていた。
・定期的な追加接種を受けている成犬や成猫の割合はさらに低かった。
・2020-2022年にかけて、その状況は安定または改善し、ワクチンを接種済のペットの割合がわずかに増加したように思えるが、COVID-19パンデミックの交絡効果により、最近報告されたこれらのデータを解釈することは困難である。

・2019年のPAWレポートでは、ワクチン接種を受けさせない理由のトップは “費用が高すぎる”だった(全飼い主の17%)。
・成猫の飼い主にとっては、動物病院に連れて行くことで猫にストレスを与えたくないことが、追加接種に向かう上で強力な抑制要因であり、費用よりもわずかに強力であった(本トピックが22%の飼い主に影響を与えたのに対し、費用による影響は21%)。
・したがって、Fear Free Pets®や他の同様な組織は、ワクチン接種のコンプライアンスを向上させる上で重要な役割を果たすことが可能であると考えられる。
・興味深いことに、ワクチンの安全性に対する懸念は、2019年のPAWレポートでは、ペットにワクチンを接種しない理由として言及されていなかった。

・約100万頭の英国におけるイヌを対象とした最近(2022)の研究では、12カ月の研究期間中レプトスピラワクチンを少なくとも1回接種したのイヌはわずか49%であった。
・この研究では、8歳以上のイヌは1歳未満のイヌよりもレプトスピラワクチン接種の恩恵を受けておらず、その確率は12.5倍低かった。

・別の研究(2022)では、アメリカ全土の動物病院におけるイヌとネコのノンコアワクチン接種率のばらつきを調査した。
・これらのペットはすべてコアワクチンについては接種済みであった。
・この研究において、全国的に、動物病院におけるイヌのワクチン接種率中央値はレプトスピラ症で70.5%、ボルデテラ・ブロンキセプチカで68.7%であった。
・ネコでは、FeLVについて、病院でのワクチン接種率中央値は成猫では低く(34.6%)、子猫と1歳齢の猫ではわずかに高い(36.8%)結果であった。

・獣医師やその団体が伴侶動物のワクチン接種率を向上させるために活動する余地が、裕福な国を含めても、多く残されている現状は明らかである。

・過剰な “ワクチン負荷”について、例をあげるとオーストラリアでは一価のFeLVワクチンが既に購入できないことは思わしくない事案である。
・最後にこのガイドラインが発表されて以来、その状況は悪化してしまっている。
・現在残された選択肢としては、FeLVを含む5価不活化ワクチンを接種することである。
・以前はいくつかの単価ワクチンの選択肢が存在した。
・商業的な要請により比較的小さな市場にこのような状況がもたらされたのだろう。