⑨ 【イヌの予防接種ガイドライン】

【イヌの予防接種ガイドライン
<コアワクチンについて>
・シェルターで生活していないイヌのコアワクチンについての要約情報がTable1にて提供される。異なる種類(MLV、不活化、リコビナント等)のワクチンについての情報は本ガイドラインの前セクションにて記載されている。
※Table1の訳は要約なので割愛いたします。

・世界中で使用されるイヌのコアワクチンはCDV、CAV、CPVが引き起こす疾患を防御する。
・加えて、特定の地域で働く獣医師は、狂犬病レプトスピラ症を予防するワクチンをコアワクチンであると指定する。
狂犬病が流行している地域では、法律で義務付けられていなくとも、ペットと人間の双方を守るために、すべてのイヌとネコにワクチンを接種すべきである。
・イヌの集団予防接種により、狂犬病が大幅に減少あるいは排除されるケースが証明されている。
レプトスピラ症は別種の生命を脅かす人獣共通感染症であり、世界中に広く分布する。
レプトスピラ症が流行する国や地域において、血清型が既知であり対応するワクチンが利用可能であれば、すべてのイヌにレプトスピラ症を予防するワクチンを接種することを強く推奨する。また、その地域ではこれらのワクチンをコアワクチンとみなすべきである。

・VGGは、子犬へのCDV、CAV、CPVに対する初回ワクチン接種を6-8週齢から開始し、16週齢またはそれ以降まで2-4週間毎に実施することを推奨する。
・これらワクチンの接種される頻度が高まるほど、子犬にとっての“感受性の窓”の期間が狭く(短く)なる。
・2週間毎を超えてのワクチン接種は推奨されていない。
・そのため、これら初期シリーズのコアワクチン接種回数や接種開始時期、そして接種間隔はやや異なることがある。
・初期ワクチン接種における最も重要なことは、16週齢またはそれ以降に1回でも接種をすることである。
・移行抗体は、ほとんどの子犬でその年齢までにかなり減少していることが予想されるため、それ以前でなければ、ほぼすべての子犬がワクチン接種に反応することができるはずである。

・子犬における最終接種が16週齢またはそれより僅かに遅れた場合であっても、少数の割合でワクチン接種に十分に反応しない子犬がいるかもしれない。その理由としてMDAの存在が挙げられる。
・この理由から、VGGは血清学的検査を子犬の最終接種から最低でも4週間経過した時点(本ガイドラインに合わせると20週齢またはそれ以降)で実施するか、あるいはその代わりに、26週齢時点またはそれ以降に追加接種することを推奨する。
・この提案は、2016年のガイドラインにて初めて触れられたもので、12または16カ月齢という早期に“最初の1年ごとの追加接種”を推奨していたことにとって代わる内容である。
・生後52週齢以降まで待つよりも、生後26週齢以降でワクチン接種を行う方が、コアワクチンの接種回数は増えないが、まだ能動免疫が得られていない少数の子犬の感受性期間を大幅に短縮することができる。
・VGGの以前の推奨(2016年)は、このワクチン接種を26週齢-52週齢の間で行うことであった。
ガイドラインの最新版では、このワクチン接種を生後26週齢またはその直後に行うことを推奨している。
・生後20週齢以降の血清学的検査でCPV、CDVおよびCAVに対する防御が確認された子犬は、26週齢以降のワクチン接種は必要ない。
・この早期の追加接種の推奨は、次年の約1歳での健康診断や必要な場合の狂犬病ワクチンやノンコアワクチンを実施しなくて済むようになるものではない。
・当然なことながら、多くの獣医師は、面倒を見ているイヌが、成熟な骨格や行動に達した際に再検査を希望するものである。

・認可されているワクチンの中には、子犬のワクチン接種シリーズを10-12週で終了することをデータシートで推奨しているものもある。
・小規模の実験的研究はこの推奨を支持している。
・しかしながら、他の実験的研究や実地調査では異なる結果が得られている。そして、いくつかの支持する実験的エビデンスは、いわゆる“ペン効果”により破棄されている。
・“ペン効果”とは実験用の子犬が集団で飼育され、粘膜から排出されたワクチンウイルスを各グループ内で共有可能である状況を指す。
・これは、人為的に仔犬が免疫を獲得する機会を大幅に増やすことになり、ワクチン接種によって得られる利益を潜在的に過大評価するためのものである。
・したがって、VGGは変わらず16週齢以降の接種、あるいはその後の血清学的検査または26週齢以降の追加接種を推奨する。

・“早期終了”プロトコルの理論的根拠のひとつは、子犬の早期社会化を可能にすることである。
・VGGは、犬の健全な行動発達と将来の幸福に不可欠なものとして、早期社会化を強く支持している。
・WSAVAの予防接種ガイドラインに従いながら、早期社会化を実現することは可能である。
・ある研究では、初期ワクチン接種シリーズの途中で子犬が早期社会化クラスに参加することで、CPV関連疾患を発症するリスクは低いことが明らかにされている。
・ CDVやCAVも同様なことが当てはまるだろう。

・MLVコアワクチンによる予防接種に最適な反応を示したイヌは、繰り返しのワクチンを要すことなく、何年も強固な免疫を維持できる。
・ひとたび子犬が能動免疫を手に入れた場合、その後の再接種は3年に1回必要となる。
・コアワクチンを生後26週以降で接種する場合、コアワクチン接種と1年ごとの健康診断を同期にするために、また飼い主にとって便利になるように、次の接種を(3.5歳まで待つのではなく)3歳で行うほうがいいかもしれない。

・犬用不活化コアワクチンは、MLVワクチンのように長期にわたる防御を提供しないことは強調すべきである。
・組換え型犬用コアワクチンは、MLVワクチンと同様の防御を提供する。
・詳細な比較は本ガイドラインの範囲外である。

・ワクチン接種歴が不明または不完全である成犬がワクチン接種のために来院することはよくある。
・MLVコアワクチンでは26週齢以上のイヌに1回接種するのみで免疫を誘導するのに十分であり、長期にわたる防御を与えられる。
・リスクの高い状況(アウトブレイクなど)であれば、2-4週間後に2回目の接種を検討するのが賢明であろう。

狂犬病流行地域では、狂犬病ワクチンの接種も必要である。
狂犬病ワクチンの大部分は不活化ワクチンであるが、免疫原性は極めて高い。
・他の多くの不活化ワクチンとは異なり、1回の接種で免疫を獲得することができる。
・世界の一部の地域では、生後12週齢で狂犬病ワクチンの初回接種を行い、1年後に2回目の接種が推奨されているが、国によっては現地で製造されたワクチンの推奨接種スケジュールがこれと異なる場合があるため、その地のルールに従うべきである。
狂犬病ワクチンの追加接種の間隔は、法律で義務付けられていることが多い。
狂犬病ワクチンの認可された免疫持続期間は通常1年または3年である。
・再接種の間隔は、第一に現地の規制、また規制がない場合はデータシートのDOIの記述に基づくべきである。
・法的要件がワクチンのデータシートと食い違う国では、法律に従わなければならない。
・ローカルな地域で製造されたDOIが1年である狂犬病ワクチンを安全でかつその効果が3年間使用できると仮定するべきではない。
・獣医師は法律に留意すべきであるが、最低3年間の免疫が得られることが明らかにされている製品を入手可能な場合には、国内の獣医師会は、地域の規制を現在の科学的証拠に合わせ変更するよう働きかける検討をしてもよいであろう。

・犬レプトスピラ症を予防するワクチンは、住んでいる地域や旅行する地域で疾患が流行しており、血清群が既知であり、適切なワクチンが市販されている場合、本ガイドラインではコアとみなされるようになった。
・これが意味するものとして、本ガイドラインによれば、犬レプトスピラ症を予防するワクチンは、多くの地域ではコアと指定されるものであるが、世界のすべての地域で指定されるものではないということである。
・南オーストラリアなど、深く調査された世界の少数の地域では、犬レプトスピラ症が発生しているというエビデンスはほとんどないか、全くない。
・悲しいことに、世界の多くの地域では、犬をレプトスピラ症から守るために、どの血清群を現地で使用するワクチンに含める必要があるかは未確定である。
・どのワクチンを接種すべきかが不明確な場合、ワクチンをコアに指定することはできない。
・今のところ、異なる血清群間において、ある程度の交差防御が起きる可能性を示唆する興味深いパラダイムを覆すような研究がフランスにおいてあるものの、この状況は変わっていない。
・既知の数多くある病原性変異体から引き起こされる犬レプトスピラ症を防ぐことのできる可能性のある“汎防御型”ワクチンが商業開発されるのであれば、それは切に待たれるものであり、そのようなワクチンの開発が成功されれば、世界の非常に多くの地域にてレプトスピラワクチンをコアとみなすことができるだろう。

・世界的には、現在、犬レプトスピラ症からイヌを守るために1価、2価、3価、4価のワクチンが存在する。
・これらには、Icterohaemorrhagiae, Canicola, Grippotyphosa, Pomona and Australisといった血清群に属する様々な血清型が含まれている。
・4価ワクチンはより広範な防御を提供する。
・一般的に、これらのワクチンは強力だが一過性の血清転換を引き起こす。
・免疫(感染性試験を防御するもの)は血清陽性期間より長い(最大15カ月におよぶ)ことが分かっている。
レプトスピラ症を予防する不活化ワクチンは、免疫成立のため2回接種する必要がある。

<ノンコアワクチンについて>
・イヌのノンコアワクチンに関する要約はTable1にて提供される。

・最も広く使用されるイヌのノンコアワクチンはボルデテラ・ブロンキセプチカとパラインフルエンザウイルス(CPiV)に対するものである。
・他のノンコアワクチンは,ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)、犬インフルエンザウイルス(CIV)、リーシュマニア・インファンタム(Leishmania infantum)に対するものがあり、使用できる地域がさらに限定される。
・犬ヘルペスウイルス-1型に対するサブユニットワクチンもあり、特に妊娠中の雌犬に使用される。
・このワクチンは、血清陰性の雌犬において母体血清中の中和抗体の増加を誘導することが示されている。
・この抗体は受動的に初乳へと移行され、感染症が致命的となる3週齢未満の子犬を防御することが明らかとなっている。
・生後間もない哺乳不良の子犬では、十分な防御は見込まれないだろう。

・ノンコアワクチンは一般的に信頼できる防御のために1年ごとの接種が必要となる。
・したがって、本ガイドラインによると、成犬では1年毎のワクチン接種となる可能性があり、その接種されるワクチン中の種類は年ごとに異なるかもしれない。
・CPV、CDV、CAVのように長期間の防御を可能とするワクチン、これらは他種ワクチンと比較し少ない回数の接種にすることができる。
・多くの犬では、CPV、CDV、CAVを予防するワクチンは多くとも3年に1回程度の頻度で接種され、その他の必要なワクチンは毎年接種される。
・ノンコアワクチンとレプチスピラ症のワクチンについて、予防が “失効”した場合(すなわち、以前は適切に予防接種を受けていたにもかかわらず、最後にそのワクチンを接種してから長い間隔が空いてしまった場合)、予防措置として “再度開始”し、2-4週間の間隔をあけて2回接種することが推奨される。

・呼吸器の病原体に対するノンコアワクチンは感染を予防することはできないが、疾患の重症度を軽減する可能性がある。
・CPiV、B. bronchisepticaおよび犬アデノウイルス2型(CAV-2)を防御するワクチンは、これら3つの抗原の異なる組み合わせで利用可能である。その種類として、以下のものがある。※この種類については割愛します。
・CPiVやB. bronchisepticaのワクチンを非経口的に注射した場合、粘膜ワクチンとは異なる防御レベルを提供する可能性があり、経鼻投与の方が、経口投与よりも優れた臨床結果であったことを表すいくつかのエビデンスが存在する。
・一過性の咳、くしゃみ、眼や鼻からの分泌物は、経鼻または経口ワクチン接種後のイヌにごく一部で起こる可能性がある。

・このセクションにおけるインフルエンザウイルス、リーシュマニア症、ボレリアに関する内容は割愛いたします。

<非推奨ワクチン>
・一部の国では利用可能であるが、イヌでの使用が推奨されていないワクチンの要約はTable1にて提供される。

・イヌの腸コロナウイルス(CCoV)に対するワクチンやジアルジアに対するワクチンは、推奨されていない。
・CCoVが成犬の腸疾患につながる主要な病原体であるという証拠は弱く、子犬の感染に伴う下痢は一般的に軽度であり、感染は通常若齢の子犬に起こる。
・従って、6-12週齢での予防接種は多くの感染を予防するには遅すぎてしまう。
・さらに、CCoVに対する防御は腸内の分泌型IgAの存在に依存しており、非経口的にワクチン接種を受けたイヌの腸では防御に関わるIgA抗体反応は発現しないことがわかっている。
・現在利用可能なワクチンが、時折出現するウイルスの変異型病原体(パントロピック株)を防げるという証拠はない。